富栄養化対策についてメモ書きしています。
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富栄養化対策の概要
・閉鎖性水域等における栄養塩の増加を富栄養化と呼び、富栄養化は植物性プランクトンの増殖を引き起こし、赤潮やアオコの原因となる。 ・富栄養化対策とは、湖沼や湾などの閉鎖性水域に注ぎ込む河川へ排出される、窒素およびリンを削減する各種技術のこと。 ・窒素およびリンに対して、それぞれ物理化学的方法および生物学的方法が存在するが、下水処理では有機汚濁も同時に削減する必要があるため生物学的方法が採用される事例が多い。 ※参考サイト 富栄養化対策 - 環境技術解説|環境展望台:国立環境研究所 環境情報メディア
富栄養化対策の現状
・1960年代後半以降、河川における有機汚濁は相当程度改善されてきたが、湖沼・内海・内湾等の閉鎖性水域では、窒素及びリンに関しての環境基準達成率の低い水域が多く残されている。 この原因として、生活排水、工場からの産業排水、畜産廃棄物、農耕地からの排水に含まれている、栄養塩類の流入が挙げられる。 ※参考サイト 富栄養化対策 - 環境技術解説|環境展望台:国立環境研究所 環境情報メディア
窒素・リンの発生源
・生活系排水では、窒素は有機性窒素やアンモニアとして、リンは有機リン酸化合物等として排出されるものが多い。 ・産業排水では、排出される形態、濃度は業態や工程によって様々である。 排水中の窒素濃度が比較的大きな業種として、食料品製造業(食品由来)、金属機械表面処理業(窒化処理という表面処理工程で使用するアンモニアガス由来)、病院および旅館(し尿など排泄物および食品由来)が、リン濃度については、食料品製造業、病院、洗濯業(洗剤由来)が挙げられる。 ・その他に該当するものは、面源由来(道路や田畑、山などの地面からの流出)と考えられている。これらは降雨時に洗い流されて水域に流出していることから、降雨の貯留または簡易処理が検討されている。 ※参考サイト 富栄養化対策 - 環境技術解説|環境展望台:国立環境研究所 環境情報メディア
富栄養化対策技術の概要
(1)リン除去 ・リンは排水中に溶解性、あるいは浮遊性化合物として含まれる。 ・リン除去処理(脱リン処理)では、水溶性のリンを不溶性化合物に変換し、固液分離によって分離している。 ・リン資源は世界的な枯渇懸念があり、今後150~200年程度で無くなるとも言われている。 特に日本では、リン鉱石を輸入に頼っているため、リンの再資源化を目的とした脱リン処理技術が研究されている。 1)物理化学的除去 ①凝集沈殿法 ・リンと同時にSS(浮遊物質)、CODの一部、色度等も除去できるため広く適用されている。 ・基本は、凝集剤として鉄塩、アルミニウム塩、カルシウム塩を使用して、液中のリン酸イオンと反応させ難溶性の塩を生成するというものである。 ・凝集沈殿法には、前処理として排水を最初沈殿池等で凝集処理する方法、活性汚泥法の曝気槽に直接添加する方法(凝集剤添加活性汚泥法)、生物処理後の高度処理として凝集沈殿する方法、高度処理として砂ろ過の手前で凝集剤を添加する方法、等がある。 ・凝集剤添加活性汚泥法は、容易な施設改造で確実なリン除去が可能であることから、小規模な浄化層から大規模下水処理場まで適用例が多い。 ②晶析脱リン法 ・下水の二次処理水(膜ろ過や曝気などで有機物を処理した下水)中のリン濃度を低下させる技術として開発された。 ・ある物質の過飽和溶液に、同じ物質の結晶を入れると、結晶表面で晶析反応が起こり同種の結晶が生成できる現象を利用している。 ・汚泥が発生せず、成長した結晶をリン資源として回収・再資源化することが可能。 ・同法を適用するためには、前処理として炭酸イオンの除去やpH調整が必要であり、そのための試薬のコストや運転管理などが課題である。 ③吸着脱リン法 ・活性アルミナ、ジルコニアフェライト、マグネシア、陰イオン交換樹脂等を充填した反応槽に、排水を通水する方法。 ・排水中のリン酸イオンを吸着剤表面に吸着させて除去するため、汚泥の発生が無い。 ・装置は簡単であるが、吸着剤の吸着容量に限りがあるため、定期的な吸着剤の再生が必要。 2)生物化学的除去 ・活性汚泥中微生物の中には、ポリリン酸蓄積細菌(PAO)と呼ばれ、下水中のリン酸を体内にポリリン酸(多数のリン酸分子が結合した、高分子化合物)の形で貯蔵することができるものが存在する。 PAOは、嫌気的な条件下では、細胞内に含有しているポリリン酸を放出するが、好気性な条件下では、水中のリン酸を細胞内にポリリン酸の形で蓄積するという性質を持つ。このとき取り込むリン酸の量は、嫌気条件で放出するリンの量より多い。 生物化学的除去では、このようなPAOの性質を利用し、通常の活性汚泥プロセスを改良することで、有機物と共にリンも除去する方法である。 ・この性質から、物理化学的リン除去よりも、生物学的リン除去が好まれる傾向にある。 ①フォストリップ法 ・好気状態で汚泥に吸着したリンを嫌気状態にしたリン溶出槽で溶出させる。その上澄水に凝集剤を添加してリンを凝集沈降分離する。一方、リン溶出槽で放出した汚泥は曝露槽に返送される。 ・日本では適用が少ないが、欧米では多くの例がある。 ②嫌気好気法(AO法) ・活性汚泥処理法の前半を嫌気槽とし、後半を好気槽としており、後半の好気槽でリン除去を行っている。リンを過剰摂取した活性汚泥は、余剰汚泥として系外に引き抜かれる。 (2)窒素除去 1)物理化学的除去 ①アンモニアストリッピング法 ・排水中のアンモニウムイオン(NH4+)を、気体のアンモニア(NH3)に変化させ、蒸気または空気と接触させることで排水中から揮発除去するもので、高濃度のアンモニアを含む廃液に適用される。 ②選択的イオン交換法 ・カチオン交換樹脂やゼオライトなどの陽イオン交換樹脂を用いて、陽イオンであるアンモニアを選択的に除去するもので、低濃度のアンモニア除去に適用される。 ③不連続点塩素処理 ・日本の上水処理で採用されており、アンモニア性窒素を含む水溶液に次亜塩素酸や塩素を添加して酸化を促し、窒素ガスを生成させてアンモニアを除去する手法である。 2)生物学的窒素除去法 ・日本の下水処理における窒素除去プロセスでは、生物学的手法が適用されることが多い。 ・下水中の有機物に含まれる窒素成分の多くは、分解されてアンモニア性窒素の状態で存在している。 生物学的窒素除去法では、アンモニウムイオンを亜硝酸イオンに酸化する微生物(亜硝酸菌)、亜硝酸イオンを硝酸イオンに酸化する微生物(硝酸菌)、硝酸イオンを窒素ガスにする微生物(脱窒菌)を利用している。 ・これらの微生物および化学反応は、環境条件(酸素の有無)で制御することができる。 ①硝化脱窒法 ・硝化脱窒法は、硝化過程と脱窒過程からなる。 ・硝化過程は、亜硝酸菌および硝酸菌によるアンモニアの酸化反応で、好気条件下で進む反応である。 これらの細菌は独立栄養細菌で、硝化反応で得られるエネルギーを利用して有機物を合成する。 ・脱窒過程は、脱窒菌が硝酸または亜硝酸を酸素の代わりに利用することで起こる反応で、無酸素条件下で進む。 脱窒菌は従属栄養細菌で、脱窒反応で得られる酸素を利用して有機物を呼吸に利用する。有機物が足りないと脱窒反応が進まないので、その際は別途、酢酸やエタノール等を加える。 ②ANAMMOX法(嫌気性アンモニア酸化) ・ANAMMOX法は、亜硝酸をアンモニアで還元して窒素に変える反応を利用している。この反応を担うのが、ANAMMOX菌と呼ばれる新しい種類の脱窒菌である。 この細菌は、自然界に広く分布するほか、無酸素あるいは無~低有機炭素条件にさらされている汚泥中に存在する。 ・同菌は独立栄養性の脱窒反応を行うため、有機炭素源が不要であるほか、硝化に要する酸素供給量が削減できることから、低コストな脱窒処理として期待されている。 ・課題は、ANAMMOX菌の生育速度が極めて遅いことで、ANAMMOX菌の培養技術の開発が進められている。 ※参考サイト 富栄養化対策 - 環境技術解説|環境展望台:国立環境研究所 環境情報メディア
富栄養化に伴う問題点
●上水における問題点 ○凝集阻害 ・富栄養化した湖沼や貯水池から取水した水道原水中の懸濁物質を除去するために、凝集操作が必要となる。 ・懸濁物質が多い場合は注入する凝集剤の量も多くなる。 ・藻類が増殖するとpHが上昇し凝集操作が阻害され、凝集がうまく行かなくなる場合も生ずる。 ○トリハロメタンの生成 ・前塩素処理を行っている場合、次亜塩素酸と藻類由来の有機物が反応して発ガン性物質と疑われているトリハロメタンが生成する。 ○ろ過池やスクリーンの目詰まり ・富栄養化にともなう藻類の大発生はろ過池やスクリーンの目詰まりを引き起こす。 ○異臭味障害 ・富栄養化にともない藻類の大発生が起こると水に不快なにおいが付くことがある。 ○鉄、マンガンによる障害 ・富栄養化にともない発生する多量の微細藻類が死滅し、底層に沈降していくと細菌の分解作用を受ける。その結果、底層が嫌気状態になり,底泥中の鉄やマンガンが溶出してくる。 鉄やマンガンが水道水に含まれると洗濯物の変色や味の低下を引き起こす。このため,浄水処理において除鉄,除マンガン処理が必要となる。 ●農林水産業への影響 ○水産業 ・ある程度の富栄養化は、藻類の増殖が盛んになり、動物プランクトンが増加し、魚類の餌になるため漁獲高が上がるという効果がある。 しかし、富栄養化にともないサケ、マスなどの高級魚が消失し、商品価値の低い魚類に代わることになるので、漁獲収益は低下することになる。 ・富栄養化にともない捕食者や分解者が影響を受け、富栄養状態で生息可能な生物相へと変化していく。 ・再生産の場が富栄養化により貧酸素化していくと、成魚は外的影響に対して耐性を有するが、稚魚については耐性がないため、魚が減少していくことが考えられる。 ○農産物 ・富栄養化した湖水または河川水を灌漑用水として用いると、農作物にも悪影響を与える。 特に窒素の場合に被害が大きく、稲の過繁茂、倒伏、登熟不良、病虫害多発などにより収量が激減する。 ○家畜 ・藍藻類の多くの種類は毒素を産生するため、家畜を放牧している地域の水源において藍藻類が発生した場合、家畜が水を飲んで健康障害が引き起こされる可能性がある。 ※参考サイト