環境保護の情報メモ

残留農薬の基準、試験

残留農薬の基準、試験についてメモ書きしています。

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  1. 安全性とは?
  2. 残留農薬とは?
  3. 作物残留試験
  4. ADI(1日許容摂取量)の決め方
  5. 残留農薬基準(MRL)
  6. 農薬の摂取量
  7. ポジティブリスト制
  8. 農薬の1日当たり摂取量の実態
  9. 農薬の安全に関する懸念点
  10. 農薬の畜産物への残留を評価する仕組み、家畜代謝試験・残留試験
安全性とは?

・ある化学物質が安全であるかどうかは、物質の固有の性質(毒性の強さ)だけでなく、日常生活のなかでその物質に接触する量と時間で決まる。
 
“化学物質の安全性”=”毒性の強さ”×”接する量(暴露量)”
 
・化学物質の危険性は、その物質のもつ毒性の強弱と日常生活のなかでその物質への接触の仕方の双方から考える必要がある。
 
例えば食塩にも毒性があり、その毒性の強さは、ごく普通の摂取量なら体に何ら影響を及ぼさない程度のものだが、一度に多量に摂取すると急性毒性を示し、場合によっては死に至る危険性がある。
 また、塩分の多い食事を何十年も続けていれば、高血圧や腎臓病を招く恐れがあり、心臓や脳にも負担をかけることが知られている。
 しかし、日常生活において食塩を危険なものと意識していない。毒性があっても、その使い方(量や期間)によって安全性が確保できることを生活の知恵として習得し、利用している。

残留農薬とは?

・農薬が作用を発揮した後、ただちに消失するわけではなく、作物に付着した農薬が収穫された農作物に残り、これが人の口に入ったり、農薬が残っている農作物が家畜の飼料として利用され、ミルクや食肉を通して人の口に入ることも考えられる。
 
・残留農薬が人の健康に害を及ぼすことがないように、農薬の登録に際して安全性に関する厳重な審査が実施されている。

作物残留試験

・それぞれの農薬の使い方に応じた作物中の農薬の残留濃度を測定し、最も適した農薬の使用法を決定するために行う。
 一般に、農薬散布からの経過日数が長くなるほど農薬の分解・消失が進んで残留量は減少するが、この傾向を”作物残留試験”によって経時的に残留量を精密に測定することで把握し、許容量(残留農薬基準)以下になるよう収穫前日数を決め、それを踏まえた使用方法ならびに使用基準を設定する。
 したがって、農薬を使用する際には、ラベルに表示されている使用方法を遵守し適切に散布すれば、農薬が基準を超えて残留することない。
 
・農薬は、その農薬の登録申請に関わる使用方法(時期、回数、量)などに基づいて、通常用いられる器具を使用し適切に施用する。
 農薬は、原則として残留の消長が確認できるよう何段階かの経過日数を設けて施用する。収穫の一週間前、二週間前、農薬の最終散布日から1日後・3日後・7日後および14日後など)
 
・作物ごとに何例の作物残留試験を行うかは国あるいは機関によって異なる。
 日本では作物ごとに二ヶ所以上の圃場で試験を行い、各圃場から収穫された作物の分析は、それぞれ二ヶ所の分析機関で分析し、得られたデータのうち最大の数値をその作物の残留値としている。
 欧米における残留試験の例数はもっと多く、得られたデータの中央値を採用している。

ADI(1日許容摂取量)の決め方

・ADI(体重1kg当たりの1日許容摂取量)とは、その農薬を人が一生涯に渡って、仮に毎日摂取し続けたとしても危害を及ぼさないとみなせる量のこと。
 
・農薬の登録申請時に提出される毒性試験の結果から、その農薬を一生涯に渡って仮に毎日摂取し続けたとしても、危害を及ぼさないと見なせる体重1kg当たりの1日許容摂取量(ADI:acceptable daily intake)を求める。
 
①動物を用いた毒性試験
 
②無毒性量/NOAEL:no-observed adverse effect level(mg/kg/日)を求める
 
ラットやマウスの動物を用いた慢性毒性試験などの長期毒性試験の結果の中から最も低濃度でも影響の見られる試験を選び、その試験で影響のみられなかった投与量(無毒性量/NOAEL:no-observed adverse effect level(mg/kg/日))を求める。
 
③ADIを求める
 
この値は動物試験による結果であることと人においては個人差があることを考慮して、不確実係数(通常1/100[1/(10[種間差]×10[個人差])])を乗じ人に影響のない量を求める。
 これに日本人の平均体重(53.3kg)を乗じることにより、日本人1人当たりの摂取が許容される量となる。

残留農薬基準(MRL)

・通常、作物の表面に散布された農薬は、大気中への蒸発・風雨による洗い流し・光および水との反応による分解などで、散布日から時間が経つにつれて減少していくが、その一部は収穫時の作物に残留することがある。
 このため、予め試験を行って作物への残留量を的確に把握し、作物残留に係る登録保留基準(作物ごとの許容量)を超えないことを確認したうえで登録が受けられる。
 
・農薬の有効成分(成分)ごとに食用作物に残留が許される量を決めたのが、農薬の残留基準。
 
・各作物の残留データからその農薬の総摂取量を計算し、この値がADIの80%を超えていない場合は、各作物の最大残留値がその作物の残留農薬基準の算定に使用される。
 超えていた場合は、いれずかの作物の、より残留レベルの低い施用時期あるいは使用回数を選択し、再度農薬の総摂取量を計算する。
 このようにして、農薬の総摂取量がADIの80%を超えないような各作物の施用方法を決めていく。
 
・厚生労働省によって残留農薬基準が設定されると、その基準値が守られるように、その農薬の使用方法が農林水産省によって定められる。

・複数の作物に使用される農薬の場合、複数の作物に残留する農薬のそれぞれの摂取量の総和が、毒性試験で求めたADIを超えない場合は、その残留量は安全だと考えられる。
 
・実際には、農薬は作物以外にも空気、水などからも入ることがあるので、一般には作物由来の農薬の総摂取量がADIの80%を超えなければ安全と考える。
 
・作物に散布された農薬は、作物に付着するもの、付着しきれずそのまま土壌、大気中にいくもの、水田水から河川に入るもの、また分解してしまうものがあり、農作物や水などを通じて人間が農薬を摂取することになる。
 したがって、各経路から摂取される農薬がADIを超えないように管理、使用する必要があり、環境大臣が定める登録保留基準は、この点を考慮して設定されている。

農薬の摂取量

・農薬(有効成分)の摂取量は、各作物に残留するその農薬の濃度とそれらの作物の摂取量との積によって求められる。
 
・有効成分の残留濃度は作物残留試験から導き出される。
 
●理論最大一日摂取量(TMDI)と推定最大一日摂取量(EDI)
 
・残留農薬基準(MRL)は、作物残留試験の成績に基づいて設定され、収穫直後に非可食部位まで含めて分析を行って得られた最大残留値に基づいている。
 
・TMDIは、MRLに基づいて算出される。
 
・MRL、TMDIは、
①収穫直後の作物の残留データを用いる、
②非可食部位分の分析データも使用する、
③すべての作物に常に最大の残留があると考える、
④TMDIがADIを超える場合がある、
など過剰評価であるとも考えられている。
 
・欧米諸国では、可食部のみの分析データを用い、保存中あるいは調理加工中の農薬の濃度の減少も加味して残留量を算出し、より現実的な残留農薬摂取量を推定する方法が採用されている(EDI)
 
●国別推定一日摂取量(NEDI)
 
以下のような、EDIよりさらに制度の高い推定法が提案されている。
①作物残留試験はGAP(適正農業規範)を満たすなど公認された試験でなければならない、
②残留農薬の分析は収穫後の農作物を対象とする、
③農薬残留データとしてMRLを使う代わりに残留試験で得られたデータの中央値を用いる、
④可食部分のみの分析データを用いる、
⑤国別の食品摂取量のデータを使用する、
⑥保存・調理加工中に残留濃度に影響を及ぼす要因を加味する。

ポジティブリスト制

・ポジティブリスト制とは、残留基準の設定されていない農薬が残留する食品の販売等を禁止することをいう。
 残留農薬や食品添加物の規制の方法には、基本的にはポジティブリスト制度とネガティブリスト制度という2つの考え方があるが、ポジティブリスト制度は原則すべてを禁止し、”残留を認めるもの”のみをリストにして示す方式。(従来のネガティブリスト制度は”残留してはならないもの”をリストにして示す方法)
 
・日本では、2003年の食品衛生法の改正により、2006年5月29日からポジティブリスト制度が導入された。
 それまでの日本の残留農薬の規制は、残留基準が設定された農薬についてのみ、その基準を超えた食品の販売等を禁止するネガティブリスト制度方式だったが、残留基準が設定されていない農薬については、輸入農産物が増加するなか残留していても規制できず問題となっていた。
 
・ポジィテブリスト制度は、すべての農薬等を対象に次の3つ区分している。
 
①残留基準設定農薬は、その残留基準以内での作物残留を認めている。
②残留基準が定められていない農薬は、”人の健康を損なうおそれのない量(一律基準値0.01ppm)”を設定し、それを超えた農産物の販売等を禁止した。
③なお、天敵農薬と特定農薬は、ポジィテブリスト制度の対象外。
 
残留基準および一律基準を超えて農薬等が残留した販売食品等は、廃棄その他の必要な措置を適確かつ迅速に講ずるよう努めなければならない。(食品衛生法第3条3項)

農薬の1日当たり摂取量の実態

・厚生労働省が平成14年度に実施した調査結果では、150農薬のうちいずれかの食品群において検出された農薬は17農薬にとどまっている。
 なお、この調査結果について厚生労働省は、”国民が日常の食事を介して食品に残留する農薬などをどの程度摂取しているか把握するため、国民栄養調査を基盤としたマーケットバスケット調査方式による1日摂取量の調査結果を取りまとめたところ、推定される摂取量の1日摂取許容量(ADI)に占める割合は、0.08~5.41%であり、現状ではこれらの農薬の摂取量について安全上の問題はないと考えられる。”と公表している。
 
※最新の状況
国内産農産物における農薬の使用状況及び残留状況調査結果について

農薬の安全に関する懸念点

・農作物を家畜の飼料として使用する場合には、畜産物にも残留農薬の基準が必要では?
 
・農薬の安全性は個々の農薬について評価される。しかし、実際の作物には複数の農薬が残留していることが考えられる。
 残留している個々の農薬については安全とされていても、何種類かが合わさった場合はどうなるのか?

農薬の畜産物への残留を評価する仕組み、家畜代謝試験・残留試験

●農薬の畜産物への残留を評価する仕組み
 
1)飼料の安全性の確保及び品質の改善に関する法律(飼料安全法)に基づく飼料の残留農薬基準値の設定
 
・主に輸入飼料を給与された家畜由来の畜産物の安全を確保するため、飼料安全法に基づき、国産及び輸入飼料中の残留農薬基準値を定めて規制してきた。
 
・飼料の残留農薬基準値を設定する際には、その農薬が飼料を通じてどの程度畜産物(乳や肉、卵等)に残留するか評価し、その畜産物を食べた消費者の健康に影響を及ぼすおそれがないことを確認している。
 もし、消費者の健康に影響を及ぼすおそれがある場合には、飼料の残留農薬基準値を見直したり、飼料としての使用を制限するなどの措置をとっている。
 
2)農薬取締法に基づく農薬登録にあたっての評価
 
・これまで、国内で飼料作物や稲に使用できる農薬の登録にあたって、作物残留試験の結果から飼料作物や稲わらに一定濃度以上残留する場合に、乳への移行試験(畜産物の代表として乳に移行するかを調べる試験)のデータを求めてきた。
 そのデータから、乳に移行するような農薬は、登録を認めないか、もしくは、その農薬を使用した稲からできた稲わらを家畜に与えないよう指導していた。
 この仕組みでは、農薬が乳に残留するかどうかだけで使用の可否を判断していた。
 乳や肉、卵等それぞれの畜産物に農薬がどの程度残留するかを推定して畜産物を経由した農薬の摂取が消費者の健康に悪影響を及ぼさないことを確認する仕組みにはなっていなかった。
 このたび、農林水産省は、新たに家畜代謝試験及び家畜残留試験のデータの提出を求めることとし、それぞれの試験の詳細を定めたガイドラインを作成した。これらの試験のデータを用いて乳や肉、卵等それぞれの畜産物への農薬の残留量を推定し、消費者の健康に影響を及ぼさない場合は、その農薬を国内で飼料作物等に使用できるようになる。
 なお、副産物が飼料に使用される作物(例えば、稲は稲わらが飼料として利用される)についても、飼料作物と同様に農薬の畜産物への残留を評価する仕組みにする。
 
●家畜代謝試験・残留試験の概要
 
1)家畜代謝試験
 
・飼料作物等における農薬の作物残留試験の結果、残留が認められた場合に、家畜代謝試験を実施する。
 
・農薬の有効成分等を家畜に投与し、その農薬が家畜の体内のどの部分に移行し、どのような化合物に変化するかを調べる。
 
・家畜代謝試験の結果、畜産物(乳や肉、卵等)に農薬の有効成分やその主要な代謝物(家畜の体内で変化した化合物)が残留する可能性がある場合には、家畜残留試験で残留濃度を詳しく調べることになる。
 
2)家畜残留試験
 
・農薬の有効成分等を家畜に投与し、農薬の有効成分やその主要な代謝物が肉や卵等の畜産物にどの程度残留するかを調べる。
 
・家畜残留試験の結果と飼料作物等における農薬の作物残留試験の結果(飼料作物等にその農薬がどの程度残留するか)から、その農薬を家畜がどの程度摂取し、それによって農薬の有効成分やその主要な代謝物が畜産物にどの程度残留するかが推定できる。
 その濃度から、人が畜産物を介して農薬の有効成分やその主要な代謝物をどの程度摂取するかを推定して、消費者の健康に影響を及ぼすかどうかを評価する。
 消費者の健康に影響を及ぼすおそれがない場合のみ、飼料作物等にその農薬を定められた方法で使用することが認められ、肉や卵等それぞれの畜産物に残留農薬基準値が設定される。


※参考資料『坂井道彦,小池康雄(2003)ぜひ知っておきたい農薬と農産物 幸書房』
ホクレン農薬.net/農薬の基礎知識
農林水産省/農薬の基礎知識

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