有機農業の肥料、養分に関する基礎知識についてメモ書きしています。
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施肥の基本となる原則
・様々な異なる要求をもつ作物を輪作の中に加え、特に土の窒素を増やすマメ科の作物を入れる。 ・元肥として自分の農場から出た有機物を使う。 ・無機成分の欠乏症状を示す土壌においては、規約書で許されている材料を使い、微生物を仲介として、作物が少しずつ利用できるように施す。 規則的な土壌分析と養分の収支(取り込み、持ち出し、流亡など)によって土の肥沃度を調べる必要はある。 ※参考資料『カトリーヌ・ドゥ・シルギューイ(1997)有機農業の基本技術 八坂書房』
腐植
●腐植とは? ・土壌中に含まれる土壌有機物のうち、まだ明確な形が残る新鮮な動植物遺体(粗大有機物)を除いた無定形の褐色ないし黒色の有機物を、一般に腐植と言っている。 ・腐植は土壌中で粘土鉱物と結合して粘土腐植複合体となり、無機養分を保持したり土壌を団粒化したりして、土壌の機能を高める重要な働きをしている。 ・粘土や腐植は粒径が小さいので、同じ体積の砂などに比べると表面積が非常に大きく、大量の養分を貯えることができる。 窒素やカリウムなどの養分は粘土や腐植の粒子表面に一時貯えられ、徐々に作物に供給される。粘土や腐植の多い土で肥料成分が流亡しにくく、砂の多い土で流亡しやすいのはこのため。 ○腐植の役割 ・土壌の塩基置換容量(CEC)を高め、保肥力が増大する ・作物に供給する養分の貯蔵庫 ・土壌団粒の形成 参)塩基置換容量(CEC) 有機農業の基礎知識(堆肥、緑肥、土作り)の"土壌診断(土壌の特性)" ※参考資料『有機農業営農ビジョン構築支援事業報告書(2015)有機農業の基礎知識 日本土壌協会』
●気候と腐植の発達 ・高温・多湿の気候では、安定腐植の形成はわずかなのに、現在ある腐植の無機化が早まる傾向がある。 ・温暖な気候では、腐植形成と無機化がゆっくりと進行する。 ・低温・多湿では、腐植生成は徐々に進むが、無機化はわずかしか起こらない。 ・大陸型の乾燥気候では、太陽熱によって腐植の消耗が盛んだが、反対に石灰による腐植の"保護"も起こる。 ●腐植の消耗 ・飼料作物などは大量の残渣を残し、これが腐植の原材料となる。 ・ある種の作物は自分が残す残渣以上に腐植を消耗する。ジャガイモやビートなど。 ●腐植と栄養 ・腐植が無機化する過程で、作物の要求する養分が徐々に可吸化していく。水溶性の化学肥料とは全く違う関係が土の中に出来上がる。 ※参考資料『カトリーヌ・ドゥ・シルギューイ(1997)有機農業の基本技術 八坂書房』
有機物の肥料
●有機栽培の養分管理の難しさ ・速効性化学肥料を使用することができないので、土壌中の養分管理を目標の値に近づけることが難しかったり、養分が不足してもすぐに対応することができない等の問題が生じやすい。 ・有機質肥料は、肥効が穏やかであるため、生育の施肥反応を感知しにくく、多投入になりやすい。 ・土づくりのために堆肥等の有機物が施用されるが、これらの中にも種々の栄養成分が含まれており、長期間多投入を繰り返すと養分過剰になりやすい。 特にリンやカリウムは過剰障害が出にくい元素であるため、過剰に蓄積している事例が少なくない。 ●有機質肥料の追肥 ・施設を利用して複数回の作付けを行ったり、果菜類等を長期間栽培する場合は、土壌に保持された可給態養分だけでは不足するので、有機質肥料の追肥が必要になる。 ・有機質肥料の追肥は、有機質肥料の中では速効性に分類される、C/N比が低い資材が用いられる場合が多い。 ●有機質肥料の分解 ・主成分が有機物であるため、養分を溶出させるには、基本的に微生物による分解が必要であり、それには、水分、温度、酸素条件が揃う必要がある。 乾燥すると分解と養分供給が滞る。 溶出する成分の種類、量も各条件によって異なる。 ・一般に地温が低く、C/N比の高いものは分解が遅い。 ・無機成分では、カリウムが初期に溶出し、カルシウムは分解がある程度進行してから溶出する。 ●有機物資材の種類と特性 ○有機物資材の種類 ①粗大有機物 ・植物残渣 ②堆肥化資材 ・堆肥 ・厩肥(鶏糞、豚糞、牛糞) ・食品製造業に由来するたい肥 ・生ゴミに由来するたい肥 ・バーク堆肥 ・ぼかし肥料 ③動物質肥料 ・魚かす粉末 ・蒸製骨粉 ・グアノ ・メタン発酵消化液 ④植物質肥料 ・菜種油かす、米ぬか油、大豆油及びその粉末 ・乾燥藻及びその粉末 ○有機質資材の特性 ・基本的に肥料効果と土づくりの両方の効果を有している。 ・有機資材は、一般に窒素含有量が多く、比較的短期間に養分溶出が行われる場合は、肥料効果が期待される。 逆に分解が遅く、長期間に渡って土壌に残存するものは、土づくりとしての効果が期待される。 ・大まかには、粗大有機物は土づくり、動物質肥料、植物質肥料は肥料としての効果が期待される。 ・堆肥化資材は、微生物にタンパク質やデンプン等の易分解性有機物を予め分解、代謝させたものなので、土壌に施用しても微生物による急激な分解は生じず、作物に悪影響を与えにくい。 ※参考資料『有機農業営農ビジョン構築支援事業報告書(2015)有機農業の基礎知識 日本土壌協会』
・有機物の供給は、収穫物の残渣を土にすきこむことによって得られる。 これらはたいていセルロースに富み、蛋白質などは不足している。腐植化を促進するには、有機体の窒素を加える。 ●有機物の分解 ①微生物により中間生成物となる。 ②この中間生成物の一部が初生腐植となる。 ③多くの中間生成物が安定腐植となり、また一部は無機化していく。 ・好ましいC/N比は10~12で、これが高くなると窒素が不足して、微生物は自分の栄養源として有機物を利用しにくくなる。 ※参考資料『カトリーヌ・ドゥ・シルギューイ(1997)有機農業の基本技術 八坂書房』
有機物供給のメリット
・土壌に有機物を施用することにより、土壌機能を向上させて植物の生育環境を最適化させる。 ・有機物に含まれる養分を緩やかに植物へ供給することにより、生育を促進させる。 ・施用される有機物の多くは、農業や食品加工産業などから排出されるもの等の再利用物であるため、資源を有効活用できる。 また廃棄物の集積や処理に伴う環境悪化を防ぎ、コストを削減することもできる。 ※参考資料『有機農業営農ビジョン構築支援事業報告書(2015)有機農業の基礎知識 日本土壌協会』
有機物の無機化(窒素)
●窒素 ・微生物によって無機化されるまでは作物の養分とならない。 ・無機化の速度は材料の種類、とくに窒素含量によって変わる。 そのほか、温度、水分、pH、粘土の含量、石灰の含量なども関係する。さらには栽培法(輪作のやり方、耕し方、戸外や温室かなど)にも関わる。 また堆肥や緑肥の投入によって微生物活性が刺激されるかどうかにもよる。 ・尿液など窒素含有量の多い有機物を与えすぎると、化学肥料をやったのと同じ問題(病原菌や害虫にやられやすくなり、作物の中に硝酸態の窒素が蓄積したり、地表水や地下水の汚染につながる)が起こる。 完熟した堆肥を使うとこの問題は起こらない。窒素はほとんど有機態となっており、すぐには溶け出さないから。 ・有機残渣の中に分解が不十分なセルロースが多い場合、無機化は土の中に以前からあった窒素を利用して行われる。このときしばらくの間、有機物分解のための微生物活動と作物の根の養分吸収が競合することになる。 一般に生の有機物を土に与えると、土の中での分解期間は作物にとって不適当な環境となる。そこでは、新規有機物を分解する微生物や小動物と、根圏での養分の同化に関わる微生物の間に拮抗がおこる。 ・セルロースの多い有機物は窒素をたくさん必要とする。この状態は"窒素飢餓"と呼ばれる。 ・有機物を堆肥にして土に返すのがもっともよい。堆肥化している間にC/N比は下がる。 ・畑の中に残渣があった時、作物の収穫前収穫後に緑肥を播くと残渣は早く分解されていく。このとき、堆肥化されていない厩肥も緑肥とともに表土層で分解が促進され、窒素の流亡も少なくなる。 ・窒素質肥料は、土に与えられた後の調節がきかなくなることが多い。 雨季に流亡する窒素が増えたり、通気の悪い土、乾いた石灰質の土では、窒素がアンモニア態窒素、ガス状窒素となって揮散することがある。 ※参考資料『カトリーヌ・ドゥ・シルギューイ(1997)有機農業の基本技術 八坂書房』
・土壌中の窒素は、有機態窒素と無機態窒素に大別される。 ・畑作物の多くは硝酸態窒素を好んで吸収する。 ○化学肥料を施用した場合 ・作物によって直接利用されるのはアンモニア態窒素や硝酸態窒素のような無機態窒素が殆ど。 ○有機栽培 ・有機物分解によって生じた無機態窒素の他に、アミノ酸やペプチドなどの低分子有機化合物も吸収されると考えられる。 ○有機態窒素 ・土壌中の有機態窒素は土壌微生物によって徐々に分解され、無機態窒素に変化して作物に利用される。 この有機態窒素のうち無機態窒素に変化してくる窒素を地力窒素という。 ・畑圃場では有機質肥料はアンモニア態窒素に分解され、さらに硝化菌の働きで速やかに硝酸態窒素になる。 ○無機化率 ・有機質肥料の窒素は、化学肥料と比較して無機化率が低く、低温下では特に低い。 ○C/N比との関連 ・C/N比が大きい堆肥ほど窒素の肥効率が低く、C/N比20以上のものは、ほとんど窒素の肥効は期待しにくい。 ・C/N比が高いと(20以上)、分解の際に土壌中の無機態窒素が微生物に利用され、作物は窒素飢餓となる。 ・C/N比が低いと(10以下)、無機態窒素が有機物から速やかに放出されて作物に供給される。 ※参考資料『有機農業営農ビジョン構築支援事業報告書(2015)有機農業の基礎知識 日本土壌協会』
有機物の無機化(リン酸)
●リン酸の無機化 ・無機化は可吸態となったリン酸から放出される。 ・吸収されなかったリン酸は土の中に保持される。しかし、ある部分は表土流出や浸食などで河川に流れていく。 ※参考資料『カトリーヌ・ドゥ・シルギューイ(1997)有機農業の基本技術 八坂書房』
・リン酸は土壌中で石灰やアルミニウム、鉄と結合しやすく、結合したリン酸は作物に利用されにくい。土壌の種類で最も多くリン酸を固定するのは黒ボク土。 ・リン酸の吸収は、地温の影響を受け、低温では吸収されにくくなる。 ※参考資料『有機農業営農ビジョン構築支援事業報告書(2015)有機農業の基礎知識 日本土壌協会』
有機物の無機化(カリウム)
●カリウム ・厩肥、堆肥、尿液に多く含まれるので、養分レベルでみると不足しにくい要素。 ・輪作の中にアブラナ科作物を入れると、土の中に蓄積していたカリウムが溶け出してくる。アブラナ科の根系によってカリウムは作物に吸収されやすい形にされる。 ※参考資料『カトリーヌ・ドゥ・シルギューイ(1997)有機農業の基本技術 八坂書房』
有機物の無機化(微量要素)
●二次要素と微量要素 ・みな有機物の中にあるので、特別に与える必要はない。有機物を施用することは十分な微量要素を与えることでもある。 ※参考資料『カトリーヌ・ドゥ・シルギューイ(1997)有機農業の基本技術 八坂書房』