ゲノム編集の概要

ゲノム編集についての情報をメモ書きしています。

※目次をクリックすると目次の下部にコンテンツが表示されます。

  1. 従来の品種改良、遺伝子組み換えとの比較
  2. ゲノム編集技術
  3. 植物に対するゲノム編集
  4. ゲノム編集の開発例
  5. ゲノム編集の課題
  6. ヒト受精卵に対する研究
  7. ゲノム編集も遺伝子組み換えのように制限するか?
  8. 遺伝子ドライブと生態系への影響
従来の品種改良、遺伝子組み換えとの比較

●従来の品種改良
 
・変異原(化学物質や放射性物質)を使って遺伝子の一部を変化させる。
・ある特定の遺伝子を、変異原を使って壊して働かなくしたい場合、ただ変異原を使っただけでは、何万もある膨大な遺伝子のうち、どの部分の遺伝子が壊れるのかは分からない。狙った遺伝子を壊すためには偶然に頼るしかなかった。
 
●遺伝子組み換え
 
・何千回、何万回と実験を繰り返し、偶然に狙い通りの場所に入って遺伝子が働くのを待つしかない。
・遺伝子組み換えでは、組み込む遺伝子を入れる場所を狙うことができない。狙っていない場所に、複数入り込んでしまうこともあり、コントロールが困難。
 遺伝子を入れ込む作業を大量に行い、たまたま狙い通りに入ったものを選び出す必要がある。
→これを狙い通りにできるようにしたのが、ゲノム編集。
 
●ゲノム編集
 
・これまでよりもはるかに高い確率で狙った通りの遺伝子を壊すことができる。
・編集したい遺伝子と結びつく物質を細胞の中に送り込み、目的の遺伝子と結合させる。
 この送り込んだ物質には、遺伝子を切ることができる、"はさみ"の役割を果たす物質も連結させてある。
→物質が編集したい遺伝子と結合すると、はさみが働き、遺伝子を切断。
→切断された遺伝子は壊れ、機能を失う。(ノックアウト)
→こうして切ったところには隙間ができる。
→組み込む遺伝子を同時に送り込むと、切断された遺伝子は修復しようとする過程で取り込む。(ノックイン)
 
※参考情報『NHK「ゲノム編集」取材班/著(2016)ゲノム編集の衝撃 NHK出版』

 

●従来の遺伝子組み換え技術のデメリット
 
・複数のステップが必要で、制限酵素、遺伝子導入、ES細胞、伝統的な交配作業、など異なる種類の技術を組み合わせる必要がある。
・導入しようとする遺伝子を狙った場所に組み入れるのは容易ではない。科学者らが何度試みても、間違った場所に遺伝子を組み入れてしまうことが多い。
・ノックアウトマウスを作ろうとするときには、研究者が"マイクロインジェクション"と呼ばれる作業を100万回以上も繰り返した揚句、ようやく1回だけ狙った通りにできるといった、極めて成功率の低い技術。
・汎用性に乏しい。例えばノックアウトマウスを作るために使われた組み換え技術は、マウスよりも大きなラットで同じことをやろうとしても上手くいかない。
 
○制限酵素
・組み換え用の遺伝子を作製する際に、"DNAのハサミ"として使われる制限酵素は、DNAの任意の場所で切れるわけではない。
→(実験等で確認された)6個程度の塩基からなる特定の塩基配列がある場所でしか切断できない。
①生物のDNAから何らかの遺伝子を切り出すには、実際の作業に入る前に、あらかじめ"制限酵素地図"と呼ばれる一種の設計図を作成しておく必要がある。
→この設計図では、まず生物のDNA(染色体)上で、目的とする遺伝子がどこにあるかを特定する。
②次に、この遺伝子を切り出すために、どのような制限酵素をどのように組み合わせればよいか考える。(いきなりDNA上の狙った場所をピンポイントで切ることはできないので、制限酵素地図を参照し、徐々に領域を絞り込みながら目的とする遺伝子に近づいていくしかない)
③いくつかの制限酵素を段階的に使用して、最初は長いDNAから計画的に順番に切り刻んでいき、狙った遺伝子を含むDNA断片を切り出す。
 
・制限酵素はある特定の塩基配列が存在する場所であればどこでも切断してしまうので、せっかくDNA断片を切り出しても、その中に目的とする遺伝子が必ずしも含まれているとは限らない。
 逆に言うと、切り出した多数のDNA断片の中から、目的とする遺伝子を含むDNA断片を(特殊な生物学的マーカーを使う等して)選り抜く必要がある。
 
○遺伝子導入
・マイクロインジェクション法
 細い注射針で細胞の核にDNA断片を注入
・パーティクルガン(遺伝子銃)法
 ショットガンのような方法で微粒子ごと細胞内に打ち込む。
・ベクター(運び屋)と呼ばれる特殊なウィルスや細菌を使う方法
・一種の電気ショックを使う方法
 
○相同組み換えと遺伝子組み換え
・遺伝子組み換えは自然界で起きる相同組み換えを遺伝子工学に応用した技術。
・"遺伝子導入"によってある生物の核内に導入された遺伝子断片は、この生物自身の染色体(DNA)と相同組み換えを行うことによってDNA断片に含まれる遺伝子が、この生物本来の遺伝子と入れ替わる。
・自然現象としての相同組み換えは、ランダムなプロセスなので、科学者があらかじめ狙った通りの組み換えが実際に起こるとは限らず、その確率が極めて低い。
→科学者が目的とする遺伝子組み換えを実現するまでには、長い時間をかけて実験を重ねる必要がある。
 
○遺伝子組み換えによるノックアウトマウス作製の過程
①ES細胞を用意
・全く同じDNAを持ったES細胞を大量に作る。何度失敗しても繰り返し実験を行うため。
 
②マウス本来の遺伝子と交換、ないしはそこに組み込まれる、全く別の塩基配列(遺伝子)を用意
・遺伝子バンクなどの機関から入手する。
・ノックアウトマウスを作るために必要とされる塩基配列は、"ネオマイシン耐性遺伝子"と呼ばれる特殊な遺伝子。
 ネオマイシンは抗生物質の一種で、細胞を破壊するために使われるが、ネオマイシン耐性遺伝子は、この抗生物質への耐性を備えたタンパク質を発現する遺伝子。
 
③上記ネオマイシン耐性遺伝子をマウスのES細胞の核内に導入
 
④上記③と同時に特定の制限酵素を投入
・狙いを定めた遺伝子の前後、またはその内部にある塩基配列を切断する。
→すると、この遺伝子の全体、または一部がネオマイシン耐性遺伝子と相同組み換えを起こし、結果的にこの遺伝子が破壊されたのと同じ効果をもたらす。
 
⑤シャーレの中の多数のES細胞にネオマイシンをかける
・シャーレの中にある多数のES細胞のどれが相同組み換えに成功したのかを確認するためネオマイシンをかける。
 相同組み換えを起こしたES細胞だけネオマイシン耐性遺伝子を持っているので生き残る。
・この相同組み換えがおきる確率は極めて低く、100万分の1と言われていて、科学者は非常に長い期間を費やして、膨大な数の実験を行う必要がある。
 
⑥マウスの交配作業を行ってホモマウスを作成する。
・⑤のES細胞は2個ある対立遺伝子のうちの片方のみを破壊したに過ぎない。必要なのは2個ある対立遺伝子の両方が破壊された遺伝子。
→片方が破壊されずに残ってしまうと、残った方の遺伝子がタンパク質を発現してしまって機能を無効にすることができない。
・ES細胞を代理母マウスの子宮に入れて発生させ、片方の遺伝子だけ破壊された"ヘテロマウス"を作製し、ヘテロマウス同士を交配させてホモマウスを作製する。
 
●クリスパーのメリット
 
・あらゆる種類の動物や植物に適用できる汎用的な遺伝子操作技術。
・従来の遺伝子組み換えが基本的にランダム(確率的)な手法であったのに対し、ゲノムの狙った場所をピンポイントで切断、改変することができる。
→GAAT・・といった塩基配列に対し、"A"と"C"の間にある"T"を削除する、あるいは"ACC"を挿入する、といった編集が可能となる。
・従来の遺伝子組み換えとは異なり、父方と母方、両方のDNA(相同染色体、ゲノム、対立遺伝子)を1回の操作で同時に改変できる。
→複雑で手間のかかる交配作業が不要。
・従来の遺伝子組み換えは、1回の操作で1個の遺伝子しか改変できなかったが、複数個の遺伝子を同時に改変することが出来る。
・非常にシンプルで扱いやすい技術であるために、素人でも短期間の訓練で使えるようになる。
・従来の遺伝子組み換え技術では、1匹のノックアウトマウス(特定の遺伝子を破壊したマウス)を作るのに1年以上もかかり、何度も繰り返すと何十年もかかってしまうが、クリスバーであれば短期間で繰り返しできるようになる。
 ノックアウトマウスを作るためには、従来の技術では"100万回に1回"程度の成功率であったのに対し、クリスパーでは"数回に1回"程度まで成功率が向上した。
 
※参考情報『小林雅一(2016)ゲノム編集とは何か 講談社』

ゲノム編集技術

●ゲノム編集技術開発の難しさ
 
・一種類の酵素だけを取り出して、試験管の中で作用させる場合には思ったとおりの反応を起こさせることは比較的簡単にできる。
 細胞内では、その酵素を分解する酵素があったり、DNAを修復する酵素、RNAを合成したり、分解したりする酵素もあり、狙ったとおりに働かせることは難しい。
→クリスパーとキャス9は哺乳類の細胞内でも効果的に機能を発揮したが、"キャスのファミリー"と呼ばれる似た酵素においては、うまく機能を発揮しないものもあり、細胞内ではやってみないと有効に働くかどうか分からない、という難しさがある。
 
●第一世代、ZFN(ジンクフィンガー・ヌクレアーゼ)
 
①まず、編集したいDNAの塩基配列と結合するタンパク質の部品(ジンクフィンガー)を解析して設計し、作成。
 
②上記①で作成したジンクフィンガーを細胞の中に送り込むと、何万もの遺伝子の中から目的の遺伝子を探し出して結合する。
 
③ジンクフィンガーには遺伝子を切ることができる制限酵素も連結されており、こうすることでZFNが目的の遺伝子と結合したとき、この酵素がはさみの役割を果たし、遺伝子を切断する。
・ジンクフィンガーは、一つが三つの塩基をセットで認識する。
 
●第二世代、ターレン(TALEN)
 
・一つの塩基に一つのTALリピート(タンパク質)が結合するようにした。
・ターレンは、標的としていないDNA配列を誤って切断してしまうことが少ないとされている。
 
●第三世代、クリスパー・キャス9(CRISPR-Cas9)
 
①編集対象の遺伝子の塩基配列を基に"ガイドRNA"を作成する。RNAはDNAの配列に相補的に結合するので、このガイドRNAが編集対象のDNA配列を探し出してくれる。
 
②ガイドRNAは、DNAの2本鎖を切断する酵素(制限酵素)であるキャス9と一つの複合体を形成していて、目的のDNA配列を探し出すと、キャス9がDNAを切断してくれる。(ノックアウト)
 
③クリスパー・キャス9と一緒に、新たに導入したいDNA断片を入れれば、切断した遺伝子の箇所で修復を試みる過程で、そのDNA断片を取り込んでしまう。(ノックイン)
・第一世代や第二世代のゲノム編集でガイドとして使っていたタンパク質が必要なくなり、RNAとキャス9を準備するだけで事足りるようになった。作業のプロセスは、これまでとは比較にならないほど容易になった。
 
※参考情報『NHK「ゲノム編集」取材班/著(2016)ゲノム編集の衝撃 NHK出版』

 

●第一世代、ジンク・フィンガー・ヌクレアーゼ(ZFN)
 
・ジンク・フィンガーは特定の塩基配列を認識して、そこに結合することができるので、このジンク・フィンガーとヌクレアーゼ(核酸分解酵素)を組み合わせれば、狙った場所でDNAを切断できる。
・科学者にとって極めて操作が難しい。
 
●第二世代、ターレン
 
・極めて複雑で操作が難しい
 
●第一、第二世代のゲノム編集技術の問題点
 
・DNA上の狙った塩基配列を認識し、その場所までヌクレアーゼを導くガイド役として、"タンパク質"を利用している。
→タンパク質は、まず何種類ものアミノ酸が鎖のようにつながった一次構造を形成した後、これらのアミノ酸が電気的に相互作用することによって複雑に絡み合った立体構造をしている。
 そのため、ガイドとして使うためには、この複雑な構造のタンパク質を、狙った塩基配列を認識できるような形へと丹念に設計しなければならない。
 
●クリスパー・キャス9
 
・例えば、DNAの"GCGTA"という場所で切断したければ、人工的なガイドRNAに"GCGTA"と相補的な"CGCAU"とプログラミングすれば、このガイドRNAが狙った場所にくっつき、後はCas9がこの部分を切断してくれる。
・DNA上の狙った場所へのガイド役として、タンパク質ではなく、もっと扱いやすいRNAを使える。
→RNAは、複雑な構造のタンパク質とは対照的に、G、C、U、Aという4種類の塩基が直鎖上に並んだ単純な構造をしているため、特定の塩基配列を認識するように設計するのが容易。
 
※参考情報『小林雅一(2016)ゲノム編集とは何か 講談社』

植物に対するゲノム編集

・動物の受精卵に対してゲノム編集する場合は、マイクロマニピュレーターという細い管を操作する装置を使って簡単に送り込むことができるが、植物の場合は細胞壁があるため、クリスパー・キャス9を細胞の中に届けるのが難しい。
 
・植物の場合には、遺伝子組み換え技術を使ってガイドRNAとキャス9を発現する遺伝子を組み込んだ細菌(ベクター)を細胞内に入れ込む方法が取られている。
 このクリスパー・キャス9を細胞の中で働かせて目的の遺伝子の改変を行う。
 ベクターとしては、植物の遺伝子組み換えに使うアグロバクテリウムという細菌が用いられる。
 
・遺伝子を組み替えた部分については、"戻し交配"と呼ばれる、組み換え体ではない株との交配を行うことで、取り除く。
 
・最近では、細胞壁を物理的に突破するために、ゲノム編集のツールをごく小さな金属の粒に付着させ、"パーティクル・ガン"と呼ばれる装置で、細胞に打ち込んで入れる方法なども使われている。
 
※参考情報『NHK「ゲノム編集」取材班/著(2016)ゲノム編集の衝撃 NHK出版』

ゲノム編集の開発例

●ゲノム編集を使った遺伝子治療
 
①生体外
・患者の体外で遺伝子治療を行う方法。
・患者から治療に必要な細胞を取り出し、この細胞内のDNA上にある遺伝子変異をゲノム編集で修正して、これを患者の体内に戻す。
 
②生体内
・正常な遺伝子を組み込んだウィルスを、異常な遺伝子を有する細胞へと侵入・感染させることにより、異常な遺伝子が正常な遺伝子に置き換えられることを期待する。
 
※参考情報『小林雅一(2016)ゲノム編集とは何か 講談社』

 

●通常よりも早いスピードで成長するマダイ
 
・ゲノム編集の技術を使ってミオスタチン遺伝子を壊す。
・ミオスタチンは筋肉の成長を抑えるタンパク質として知られていて、筋肉が体に付き過ぎないよう、適切な筋肉量を保つように働く。
・ミオスタチンが働かなくなると、筋肉の細胞の数が増えたり細胞の一つひとつが大きく成長するようになり、通常よりも体が大きく育つようになる。
 
●ネロール種という肉牛、筋肉量を増加
 
・ウシが生まれる前の受精卵の段階でゲノム編集を行い、ミオスタチンが機能しないよう切断する。
 
●角のない乳牛
 
・角があると、ウシ同士が傷つけあったり、人間が農作業中にけがをしたりする危険性がある。
 そのため、酪農業ではある段階で角を切っている。
・数年前にドイツの研究グループが、一部の肉牛に存在する"角のないウシ"を調べ、どの遺伝子が関係しているのかを明らかにした。
①角のある乳牛から細胞を取り出す。
②ゲノム編集の技術で角を作る遺伝子に切込みを入れ、働かなくさせる。
③ゲノム編集で切込みを入れた場所に角をつくらない肉牛の遺伝子を入れる。
④上記細胞の核だけを核を取り除いた未受精卵に移植することで角のない乳牛が生まれる。
 
●毒(ソラニン、チャコニン)のないジャガイモ、大阪大学の村中俊哉教授
 
・SSR2という遺伝子が、ソラニンとチャコニンの生成に関係している。
 
①アグロバクテリウムのDNAの中に、"SSR2の働きを止めるターレンつくる遺伝子"を組み込む。
 アグロバクテリウムは、植物に感染し、自分の遺伝子の一部を感染した植物の細胞の中のゲノムに入れ込み、自分が生きていくのに必要な栄養分をつくらせる働きを持っている。
②ジャガイモを細かく切って、植物ホルモンが入った培地にいれ、そこに細菌を入れる。この細菌はジャガイモに感染し、そのうちの一部でジャガイモの遺伝子の中にターレンの遺伝子が組み込まれる。
③組み込まれた遺伝子はジャガイモの細胞の中でターレンをつくり出す。
④出来たターレンが狙った遺伝子を壊す。
 
・上記方法だと、単に遺伝子を壊すのではなく、ターレンの遺伝子などがジャガイモの遺伝子の中に組み込まれているので、結果として、遺伝子組み換えということになる。
 
・細胞壁を取外してゲノム編集を行うと、ジャガイモのゲノムの中にターレンをつくる遺伝子を組み込むことなくゲノム編集ができるようになる。
 
・遺伝子組み換えをしていない個体と組み合わせて次世代のジャガイモをつくる"戻し交配"の方法で、ターレンをつくる遺伝子を抜いてしまうという手法もある。
 
●HIVの治療、2014年6月ペンシルベニア大学カール・ジューン博士
 
・HIVに感染した血液をゲノム編集したのち体内に戻すという臨床試験。
臨床試験の結果、免疫力を示す数値が大きく改善した。
・HIVは、血液に入り込むと白血球に取り付いて増殖することが知られている。
白血球の表面にある突起にくっつき、それを足がかりに、白血球の中に侵入し、増殖していく。
→白血球の上記突起に関係した遺伝子をゲノム編集(ZFNによる)で切断すると、白血球の表面から突起がなくなり、HIVが白血球に侵入できなくなる。
 
※参考情報『NHK「ゲノム編集」取材班/著(2016)ゲノム編集の衝撃 NHK出版』

ゲノム編集の課題

●オフターゲット作用
 
・ゲノム編集は、狙った遺伝子だけをターゲットとしているが、完全に一つの遺伝子だけをターゲットにしないケースがある(オフターゲット作用)
→狙った遺伝子以外を改変した場合は、思わぬ影響が出る可能性がある。
 
●痕跡が残らない
 
・遺伝子を破壊した操作だけであれば、ゲノム編集によってつくり出されたものかどうか、客観的に証明するのが不可能。自然界で起きている突然変異と区別がつかない。
・遺伝子組み換えでは、様々な位置に遺伝子を組み込んでいるので、遺伝子の中のどこかに痕跡が残る。
 
※参考情報『NHK「ゲノム編集」取材班/著(2016)ゲノム編集の衝撃 NHK出版』

 

●オフターゲット
 
・狙ったのとは違う場所にある遺伝子を切ってしまう(破壊する)恐れがある。
→医療分野で使用する場合は、間違った遺伝子を破壊してしまうと病気を治すどころか致命的に悪化させる恐れがある。
・オフターゲット効果の改善は進展していて、1%以下にまで抑えられることが可能になったと見られている。
 
※参考情報『小林雅一(2016)ゲノム編集とは何か 講談社』

ヒト受精卵に対する研究

●ヒト受精卵のゲノム編集
 
・受精卵などの生殖細胞のDNAをゲノム編集で書き換えると、それによる遺伝的変化が子孫に引き継がれてしまう。
→最悪の場合、操作を誤って別の病気を引き起こす遺伝子変異を発生させ、子孫に継承されてしまう恐れがある。
・いずれ本来の医療(治療)目的から逸脱して、親が、生まれてくる子どもの容姿や知能、運動能力などを、あらかじめ自由に決めてしまう"デザイナーベイビー"に使われてしまう懸念もある。
・受精卵やヒト胚の段階で遺伝子検査を実施し、ここでパーキンソン病やハンチントン病など深刻な遺伝性疾患を引き起こす遺伝子変異が発見された場合、これをゲノム編集で正常な遺伝子に戻すといった予防型医療に利用される可能性がある。
 この場合、医療とデザイナーベイビーとの境界線の線引きが難しくなる。
 
※参考情報『小林雅一(2016)ゲノム編集とは何か 講談社』

 

●2015年4月、中国の中山大学
 
・ゲノム編集の技術を使って、重度の貧血をもたらす"βサラセミア"という血液の病気に関する遺伝子の改変をヒトの受精卵で行った。
・受精卵は正常に発生できないものを使い、母胎にも戻していないので、個体としてのヒトをつくり出すものではなかった。
 
●2016年2月、イギリスのフランシス・クリック研究所
 
・ヒト胚の発生メカニズムの解明と、不妊治療に役立てる目的でヒトの受精卵にゲノム編集を行う研究について国の独立した管理機関から承認を受けた。
・ゲノム編集が行われた受精卵が母胎の戻されることはなく、あくまで基礎研究。
・正常な受精卵を使う研究を国が承認したのは初めてではないかと見られている。
 
●2016年4月、中国の広東医科大
 
・ヒト受精卵に対してHIVに感染しないよう操作するゲノム編集を行った。
・基礎研究の範囲。
 
※参考情報『NHK「ゲノム編集」取材班/著(2016)ゲノム編集の衝撃 NHK出版』

ゲノム編集も遺伝子組み換えのように制限するか?

・ゲノム編集は、遺伝子組み換えのように無差別に変えてしまうわけではなく、正確に遺伝子を編集することができる。
・以前の遺伝子組み換えの技術は、外来遺伝子を導入して、それがどの染色体のどこにどれくらいの数が入っているかということが分からなかったので、それが不安を招いている。
・ゲノム編集でも、別の生物の遺伝子を入れ込んだものは遺伝子組み換えと同様に扱うことについては、多くの研究者で異論が無いが、狙った遺伝子を壊しただけの場合は意見が分かれている。
 
●遺伝子組み換えとは違うという意見
 
・ゲノム編集でピンポイントで遺伝子を破壊した生物は、自然界の突然変異と同じだ、という意見。
・太陽からの紫外線や自然界の放射線で遺伝子は絶えず傷つけられ、細胞内では遺伝子の変異が蓄積されている。
 突然変異体として、少し変わった生物が誕生することは、生物の集団の中で絶えず起きている。
 
●遺伝子組み換えと同等に扱うべきという意見
 
・突然変異によって少し変わった生物が自然界に存在することはあったとしても、その頻度は大きく異なる。
 突然変異による生物をたくさん生じさせることができるが、これは自然にはありえない。
 
※参考情報『NHK「ゲノム編集」取材班/著(2016)ゲノム編集の衝撃 NHK出版』

 

●遺伝子組み換え作物(GMO)の規制とゲノム編集
 
○GMOを記載する際に重視されたポイント
①GMOには、Bt細菌などバクテリアのような、植物とは別の生物から取り出された遺伝子が組み込まれている。
②GMOを作る際には、バクテリア由来の外来遺伝子を、目的とする植物に組み込むためのベクターとして、アグロバクテリウムのようなバクテリアを使っている。
→感染力や毒性等、ある種の危険性を持つバクテリアがGMO栽培に関与しているので規制が必要と考えられた。
 
○ゲノム編集を使った場合の規制
・2016年5月までに米国の大学研究室などで、ゲノム編集を使って開発された新型GMOは30種類以上にも上る。
→このすべてに対し、農務省は"これらは(従来の)GMOの枠内に収まらない"と"規制の適用外"との判断を下している。
・ゲノム編集作物が規制対象外ということになれば、バイオ企業は極めて短期間に低コストで、新たな遺伝子組み換え作物を開発できるようになる。
・農務省等規制当局は、新たな枠組みを作って、ゲノム編集作物を規制していくことを検討している。
 
※参考情報『小林雅一(2016)ゲノム編集とは何か 講談社』

遺伝子ドライブと生態系への影響

・遺伝子ドライブとは、人類にとって都合の悪い遺伝子を人為的に駆逐する、あるいは逆に、人類にとって都合のいい遺伝子を人為的に繁殖させる技術。
・致死的伝染病などを撲滅できる一方で、生態系に取り返しのつかないダメージを与える恐れもある。
 
○利己的遺伝子
・2015年11月、カリフォルニア大学の研究チーム。
・クリスパーを使って"利己的遺伝子"と呼ばれる特殊な遺伝子を創り出すことに成功した。
・通常の遺伝子は父親由来の遺伝子と母親由来の遺伝子が互いに半々の確率で伝わっていくが、利己的遺伝子では、ほぼ100%に近い確率で子孫へと伝わっていくため、最終的には自分以外の遺伝子を完全に駆逐して種を制覇してしまう。
・マラリラを伝染させる蚊にクリスパーを適用し、マラリア原虫への耐性を備えた利己的遺伝子を創り出すことに成功した。
 
※参考情報『小林雅一(2016)ゲノム編集とは何か 講談社』

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