内分泌かく乱作用、環境ホルモンについてメモ書きしています。
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化学物質の内分泌かく乱作用とは?
●分泌細胞とは? ・物質を作って蓄えておき、必要な時に細胞の外に出す働きをする細胞。 ●外分泌と内分泌 ○外分泌 ・分泌物を排出管(外分泌腺)を通して、生物の体の外に放出。 ・分泌して細胞外に出す先が、生物の体の外に通じている消化管であれば、"外分泌"と呼ぶ。 ・汗(汗腺)、唾液(だ腺)、母乳(乳腺)など。 ○内分泌 ・分泌物を排出管を通さず、内分泌腺(分泌細胞)から血液中などに放出。 ・分泌して細胞外に出す先が、生物の体の外には直接は通じていない血管であれば、"内分泌"と呼ぶ。 ・遠く離れた場所にある細胞に作用することが可能。 ・生殖腺、甲状腺など。 ・"内分泌"される物質のことを"ホルモン"と呼ぶ。 ●ホルモンとは? ・ごくわずかな量で生理的な作用の調節を行う化学物質のこと。 ・内分泌腺で作られ血液中に分泌された後、標的器官に運ばれ、作用する。 ・ホルモンは、標的細胞の受容体(レスプター)に選択的に結合し、作用する。 ●化学物質の内分泌かく乱作用 ・一部の化学物質は、受容体に結合してホルモンのふりをしたり、ホルモンの働きなどを邪魔したりすることによって、内分泌の一連の働きを乱してしまう。 ・物質がどのような作用を示すかは、生体が取り入れた量や、生体との関わり(例えば発育段階の違いなど)によってによって変化する。 少ない量であれば身体にとって役に立つ作用をもつこともある物質(薬理作用)が、量が多くなると毒になることもありえる(毒性作用)。 ●環境ホルモン ・環境中に存在して、生物に対しホルモンのような影響を与える化学物質。 ・内分泌かく乱作用を持つ化学物質の俗称。 ●化学物質が内分泌をかく乱する例 ①受容体に結合して、ホルモンのふりをする。本来より指令が増加 ②受容体に結合して、ホルモンの作用を阻害する。 ③ホルモンの生合成、代謝を促進、阻害する。 ④受容体の数を増減させる ⑤本来のホルモン量の調節(フィードバック)を狂わす。 ※参考サイト 環境省_化学物質の内分泌かく乱作用に関する情報提供サイト
内分泌かく乱作用の影響
●野生生物の変化 ・下水処理排水による川魚の性の変化。 ・トリブチルスズ(TBT)による海産の巻貝の異常。 ●環境省によるメダカを使った試験試験 ・4-ノニルフェノール、4-t-オクチルフェノール、ビスフェノールAについては、内分泌かく乱作用をもつと考えられた。 ●ヒトに与える影響 ・これまでのところ、かつて医薬品として使われたことがあるDES(ジエチルスチルベストロール)での例を除き、明らかに有害な影響が認められたことはない。 ・内分泌系の一つである生殖器への影響が心配されたが、はっきりとした結論は出ていない。 ・免疫系・神経系など、内分泌系と関わりのある体内システムへの影響については、調査や研究が進められている段階。 ※参考サイト 環境省_化学物質の内分泌かく乱作用に関する情報提供サイト
内分泌かく乱作用をもつ物質
●女性ホルモン ・ヒトの生体内で合成された女性ホルモンが環境中に出て、他の生物の内分泌系に作用してしまう場合がある。 ●合成女性ホルモン ・経口避妊薬や、更年期障害の治療薬、流産防止薬として使用されたDES(ジエチルスチルベストロール)など。 ●植物エストロゲン ・一部の植物の中に含まれるホルモン様作用をもつ物質。 ・大豆の中に含まれるイソフラボノイド類など。 ●化学品の一部 ○DDT ・殺虫剤として使用されていた。 ・1971年に使用禁止。 ○PCB ・耐熱絶縁体として使用されていた。 ・1972年に製造禁止 ○TBT(トリブチルスズ) ・船底塗料(船底への貝付着防止のため)として用いられていた。 ・1990年より禁止:化審法。 ・海にすむ他の巻貝類が影響を受けることが知られている。 ○ビスフェノールA ・プラスチック製品の原料樹脂 ・弱いながら、野生生物(とくに水の中にすむ生き物)の内分泌系に影響を与えることが示唆されている。 ○アルキルフェノール類 ・界面活性剤の原料 ・弱いながら、野生生物(とくに水の中にすむ生き物)の内分泌系に影響を与えることが示唆されている。 ※参考サイト 環境省_化学物質の内分泌かく乱作用に関する情報提供サイト
※DDT、PCBについては以下の記事参照。
・POPs農薬対策の概要
・PCB対策の概要
※ビスフェノールAについては以下の記事参照。
ビスフェノールAの健康影響
トリクロサン
●抗菌物質のトリクロサン ・トリクロサンは、石鹸等に加えられていることの多い抗菌物質。 ・トリクロサンは人体にも入り込む。ヒトの脂肪組織や新生児の臍帯血、母乳から見つかっており、およそ75%の人の尿からかなりの量が検出されている。 ・ある個人の尿中のトリクロサン濃度とアレルギーの重症度に明白な相関関係があることが分かっている。 ・この物質が腸内微生物に直接ダメージを与えているのか、微生物に毒素を出すよう促しているのか、有益な微生物の働きを妨げているのかまでは分かっていない。 ・トリクロサンが感染症を誘発することを示す証拠まである。 ・トリクロサンは甲状腺ホルモンの働きに干渉することが分かった。 ・トリクロサンは塩素消毒した水と結合すると発癌性物質のクロロホルムになる。 ・アメリカの食品医薬品局(FDA)は現在、製造業者にトリクロサンの安全性を証明するように求めており、それができなければ禁止するつもりでいる。 ※参考資料『アランナ・コリン(2016)あなたの体は9割が細菌 河出書房新社』
●米国で販売禁止 ・2016年9月、米食品医薬品局(FDA)は、抗菌作用があるトリクロサンなどの19成分を含む商品について、米国内での販売を1年後に禁止すると発表。 ・動物実験でホルモン分泌に悪影響を与えた報告があった。 ・FDAは"普通のせっけんよりも病気や感染症に効果があるという根拠が示されていない"と結論付けた。 さらにFDAは"長期間の使用で安全性が検証されていない"と警告。トリクロサンが細菌を殺す仕組みが抗生物質に似ており、長く使用すると薬剤耐性菌が出てくる可能性も指摘。 ●日本での対応 ・日本石鹸洗剤工業会などは、19成分を含まない製品に切り替えるよう会員企業に求めた。 ※参考資料『2016/11/23 朝日新聞』
ネットニュースによる関連情報
●ピレスロイド系殺虫剤がADHDのリスクを高める? ・2000-2001年のNHANES(米国国民健康栄養調査)から8-15歳の687名のデータを解析。 ・データ解析の結果、ピレスロイドに曝露したことを意味する尿中指標である3-PBAが検出された男子は、検出されなかった男子に比べて、ADHDを発症するリスクが3倍高かった。 ・多動性と衝動性は、3-PBA濃度が10倍高まるごとに50%ずつ高まった。女子では3-PBA濃度とADHD症候の間に関連は見られなかった。
●ピレスロイド殺虫剤によってADHDのリスク増加? ・子宮内や授乳によりピレスロイド殺虫剤デルタメトリンに曝露したマウスに、脳内のドーパミンシグナル伝達機能不全・多動・ワーキングメモリ・注意欠陥・衝動といったADHDの症状が出ることが示された。 ・疾病管理センターや国民健康栄養調査(NHANES)のデータを利用し、 2,123名の小児・青年の医療質問票と尿サンプルを分析した。その結果、尿中のピレスロイド殺虫剤の代謝産物レベルが高い子どもは、ADHDと診断される可能性が倍以上高かった。
●妊婦がフタル酸エステル類に高レベルに暴露すると子どものIQが低下? ・妊娠中に最高25%濃度のフタル酸ジ-n-ブチル(DnBP)、フタル酸ジイソブチル(DiBP)に曝露した母親の子どもは、子どものIQスコアに影響を与えるとされている母親のIQ・母親の教育・家庭環境の質といった要因をコントロールした後も、最低25%濃度に曝露した母親の子どもよりも、知能指数がそれぞれ6.6と7.6ポイント低下していた。
●フタル酸エステルに対する暴露が多いと男性ホルモンが低下? ・米国国民健康栄養調査2011-2012のデータから2,208名の尿検体を分析し、フタル酸エステルの代謝産物13種を測定した。各々の参加者のテストステロン濃度は血液検体で測定した。その結果、フタル酸エステルへの曝露と血中テストステロン濃度には逆相関がすべての年代において見られることを発見した。
●薬用石鹸の成分トリクロサンの妊婦、胎児への暴露 ・石鹸やその他の日常の製品に最も一般的に使用されている2種類の殺菌成分であるトリクロサンとトリクロカルバンへの妊婦と胎児の曝露を検討した。 ・その結果、スクリーニング検査した妊婦の尿サンプルすべてからトリクロサンが検出された。また臍帯血サンプルの約半分からも検出されたため、胎児にも影響があるということである。トリクロカルバンも殆どのサンプルから発見された。 ・ヒトの体はトリクロサンとトリクロカルバンを効率的に洗い流すことができるが、曝露が常にある場合は別である。 ASUのベニー・ピッケ博士は"上記化合物は動物の発達・生殖問題を引き起こすため、ヒトにもこうした影響を及ぼす可能性があることを示すエビデンスが増えつつある。
フタル酸エステル
●フタル酸エステルとは? ・アルコールと無水フタル酸から合成される化合物の総称。 ・用いるアルコールの種類によって多様な種類がある。 ・主に塩化ビニル樹脂を中心としたプラスチックに柔軟性を与える可塑剤として、世界各国で使われている。 ・塩ビ以外にも塗料、顔料、接着剤などに使われている。 ●環境ホルモン ・海外の研究で、一部のフタル酸エステルが試験管レベルで極く弱い女性ホルモン(エストロゲン)様作用を示した、との報告があった。 ・フタル酸エステル含む各種のフタル酸系可塑剤は、政府が行った試験により、内分泌かく乱作用の懸念は否定されている。 2003年6月に環境省は9種類の可塑剤について、女性ホルモン様作用だけでなく、男性ホルモン様作用や甲状腺ホルモン様作用まで詳細に試験を行い、ヒトにも生態系にも内分泌かく乱作用が認められないとする研究結果を発表している。 ※参考サイト フタル酸エステルと環境ホルモン問題 Q&A