豚のアニマルウェルフェア

豚のアニマルウェルフェア向上のための管理方法についてメモ書きしています。
※参考資料
公益社団法人 畜産技術協会:アニマルウェルフェア
 
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動物福祉上の問題点

※目次をクリックすると目次の下部にコンテンツが表示されます。

  1. 防疫措置と衛生管理
  2. 豚の健康管理
  3. 温度環境
  4. 照明
  5. 空気の質
  6. 騒音
  7. 栄養(飼料、水)
  8. 床の表面
  9. 社会的な環境
  10. 飼養密度
  11. 外敵(野生動物)からの保護
  12. 離乳
  13. 正常行動等の発現を促すための工夫
  14. 取り扱い
  15. 母豚の群飼い
  16. 歯切り
  17. 断尾
  18. 去勢
防疫措置と衛生管理

・作業用長靴の洗浄。
・豚舎ごとの消毒槽の設置。

豚の健康管理

・管理者等が日常的に豚を観察し、豚の健康状態(BCS、栄養状態、疾病・傷の有無、行動等)に異常等がないかを把握する。
 
※BCS(Body Condition Score)
ボディコンディションは母豚の栄養状態すなわち肥満度(体脂肪の蓄積状態)を示すもので、この蓄積状態を数値化したものがBCS。

温度環境

・豚の飼育ステージ等に応じた適切な温度環境を維持する。
 
・暑熱・寒冷ストレスのためにパンティング(熱性過呼吸)や震え等の行動が生じた場合には原因を特定し、ストレスを軽減できるように対処することが必要。
 
・舎内の豚の高さでの実際の温度環境の測定・記録や豚の状態・行動等の観察を行い、温度環境による不要なストレスを与えていないかを確認する。
 
・暑熱対策として、クーリングパッドや細霧システム等の装置を利用することは、舎内環境を良好に保つために有効。
 
・豚舎に直射日光が当たることを避けることにより、温度の上昇を防ぐことは、暑熱対策としてだけではなく、節電対策等にもなり、コスト削減につながる。
 
・条例等により糞尿汚水を下水道に流すことができる地域では、通常の豚房でスノコになっている部分に水を張っている農家がある。水浴びができるため、暑熱対策になるとともに、行動の多様化を促す効果もある。

照明

・豚に恐怖やストレスが及ばない状況や豚の健康状態の把握等が適切に行える状況を確保する。

空気の質

・近隣住宅対策としてオゾン発生装置を設置し臭気等を抑える例もある。

騒音

・豚が慢性的なストレスを抱えたり、驚いたりする状況を防止するため、絶え間ない騒音や突然の騒音が発生することを可能な限り防ぐ。

栄養(飼料、水)

・豚の発達段階等に応じた適切な飼料(必要栄養量)と新鮮な水を提供する。
 
・豚が十分に摂食、飲水できるように、頭数に合った給餌器の幅や給水器の設置数等を検討し、不要な闘争等が起こらないように配慮する。

床の表面

・豚が足を滑らせたり、隙間等の足を挟んでけがをしたりするのを防止するため、床や床材は滑りにくく、怪我を誘発しない構造のものを選択する。
 
・現在市販されているものは、豚の月齢や利用目的に応じてスリットの幅や形状が異なり、AW的に配慮されているものが多くある。AW向上のためには排水が良く、表面が乾燥しやすいものが望まれる。
 豚の移動後、洗浄・消毒・乾燥を行い、清潔な状態を保つことも重要。

社会的な環境

・豚は周囲の環境変化に敏感に反応し、飼料や活動スペースの確保、社会的順位の確立等のために闘争する習性があり、闘争行動がけがや死亡の原因となり得るため、異なる群で飼養されていた豚を一緒にする場合は過剰な闘争が起こらないよう注意する。

飼養密度

・飼養密度が高い場合は、豚にとってストレスとなり、病気の発生、生産性の低下等の原因となるため、豚をよく観察し、飼養スペースが適当かどうかを判断する。
 
・離乳舎から子豚舎、子豚舎から肥育舎等への移動後に過剰な闘争が起こらないように早い段階で大群飼育する事例がみられる。
 また、広い場所で多頭数を飼育することで隔壁等によるデッドスペースが減り、同じ面積の畜舎を細かく区切るよりも飼育密度は広くなる。
 但し、疾病等が発生すると群全体に蔓延しやすくなることも考えられるため管理の際は注意が必要。

外敵(野生動物)からの保護

・豚を常に健康な状態で飼養し、恐怖等によるストレスを与えないため、畜舎内への野生動物の侵入を防ぐ。
 
・ネズミ、ハエ等の有害動物は、病原体の伝播に関わるほか、飼料の汚染、設備の破損等を引き起し、飼養環境を悪化させることから、侵入禁止や駆除等に努めることが必要。

離乳

・離乳は、離乳子豚及び母豚にとってストレスとなるため、豚の生理特性等を十分に理解し、離乳子豚及び母豚への影響が最小限となるように考慮する。
 
○早期離乳
・早期離乳は、子豚の特定の病気の発生をコントロールするのに有効な手段であるが、他の子豚の腹を噛んだり舐めたりする等の弊害が起こる場合がある。
・早期離乳により母豚のストレスが緩和されることも知られている。

正常行動等の発現を促すための工夫

・豚の正常行動の一つとして、ルーティング(鼻先で土やワラ等を掘り返す行動)等があり、豚の中に強い行動欲求があることが知られているが、コンクリートスノコ等の上で飼養されている豚はその行動が行えないため、新奇物等を豚舎内に入れ遊戯行動が行えるような工夫をする。
 
・オガコ豚舎や発酵床システムの場合、豚が自ら好きな場所を掘り返すこと等ができ正常行動の発現にプラスとなる。
 また、ボールや鎖を豚房内に設置することで、ルーティングに変わる遊戯行動を行うことができ、行動レパートリーの多様化につながることから、試験等でストレス減少の可能性が示唆されている。

取り扱い

・豚の取扱いの際に使用する道具は、鋭い角や先端がある等、豚に不要な痛みを与える可能性のあるものの使用は避ける必要がある。

母豚の群飼い

・EUやアメリカでは、母豚の群飼が注目されている。
 
●ICタグを利用した母豚の群飼システム
 
・母豚の首や耳に個体識別ができるICチップを取り付け、コンピューター制御された自動給餌器を用いることで母豚を管理するシステム。
 
・自動給餌器に1頭の母豚が入ると自動的に入口の扉が閉まり、ICチップで読み取った情報を基に1頭ごとに設定した量の飼料が給与され、飼料がなくなると前方にある出口の扉が開くようになっている。
 また、発情した雌豚が雄豚に近づく習性を利用して発情を検知する装置や、一定の条件にあてはまる母豚にマーキングをする装置もある。
 ICチップを用いることで情報を収集し、それを利用して管理を行うこともできる。
 
・国内では、自動給餌器1台で約50頭の母豚を管理するのが一般的。
 
・群飼と従来のストール飼育と比較した場合、自由に動くことができるため、自ら休息場所等が選択できる、行動レパートリーが増える等の利点があるが、群編成時の闘争による怪我や乗駕等が発生しやすい、きめ細やかな個体管理が難しい、豚・管理者ともにシステムに適応するのに時間がかかる等の欠点もある。
 
●フリー・アクセス・ストール
 
・フリー・アクセス・ストールは群飼システムの1つで、豚が自由に出入りできるストールと、自由に歩き回ることができるスペース(フリースペース)を配置したもの。
 
・ストールは、1頭の豚が入ると自動的に後ろの扉が閉まり他の豚が入ることができないようになっているものや、手動によりストールの扉のロックを開閉できるもの、扉のないものなど、様々な種類がある。
 また、フリースペースの形状や広さも様々で、色々な組み合せが考えられる。

歯切り

・新生子豚には8本の鋭い歯が生えており、母豚の乳頭の取り合いをする際に、他の子豚や母豚の乳房を傷つける可能性がある。
 また、母豚が乳頭を噛まれるのを嫌がり授乳を拒否したり、急に立ち上がったりすることにより、子豚のけがや圧死の原因となる可能性もある。
 歯切りは、このような事故等を防止するための手段の一つと考えられる。
 
・歯切りを行う際は、子豚への過剰なストレスの防止や感染症の予防に努めつつ、生後7日以内に実施することとする。

断尾

・豚が何らかのストレスを受けた場合に、他の豚の尾をかじる行動や、耳や腹を噛む等の行動が見られることがある。特に、尾かじりの行動が起きた場合には、その行動は群内にすぐに広まる。
 尾かじりを受けた豚は、ストレスにより飼料の摂取量や増体量が低下したり、けががひどい場合には死亡したりすることがある。
 
・尾かじりは、飼養スペースの拡大、換気の改善、けがをした豚や尾かじりの原因となる豚の分離等、ストレスの軽減によりある程度発生を減らすことが可能との意見もある。
 
・尾かじりを防止できない場合は、断尾を行うことも有効な手段の一つと考えられる。
 
・断尾を行う際は、子豚への過剰なストレスの防止や感染症の予防に努めつつ、生後7日以内に実施することとする。また、実施後は豚を注意深く観察し、化膿
等が見られる場合は速やかに治療を行い、その実施方法を再度チェックすること
とする。

去勢

・雄豚を去勢しないで肥育した場合は、肉に異臭(雄特有の臭い)が生じ、消費者に好まれない豚肉が生産される。
 
・去勢しない豚を群で飼養すると、生後5か月頃から同居している豚に盛んに乗駕することによりけがが多発する。
 
・去勢は、子豚への過剰なストレスの防止や感染症の予防に努めつつ、生後7日以内に実施することとする。

○外科的去勢法
・痛みやストレス、その後の感染や死亡のリスク増大というAW観点から、将来禁止される方向にある。
 
○代替方法
・麻酔薬と鎮痛薬の使用、雄臭(フェロモン、糞臭など)の低い品種の育種による雄豚肥育、分離精液による雌豚肥育、免疫去勢法
 
○免疫去勢法
・性腺刺激ホルモン放出ホルモン(GnRH)ワクチンを利用して精巣機能を抑制する方法。ワクチン代が生産性の向上により相殺できるということから、近年注目が集まっている。
 
※参考資料『鈴木啓一(2014)ブタの科学 朝倉書店』

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