遺伝子組み換えに関する規制、安全性審査についての情報をメモ書きしています。
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遺伝子組み換え生物に関する世界的規制
●バイオセーフティに関するカルタヘナ議定書 ・遺伝子組み換え生物が国境を越えて広がり、人間の健康に影響を与えたり、一般種に混入して生物多様性を減少させたりするのを防止する。 ・各国が"予防原則"に基づいて対策を実施することも認めており、遺伝子組み換え作物を輸入する際には、相手国に対してそのトレーサビリティを証明することを求めることができる。 ・環境や人間の健康に影響を与える可能性がある作物の輸入を禁止することができる。 ※参考資料『アンディ・リーズ(2013)遺伝子組み換え食品の真実 白水社』
※カルタヘナ議定書については以下を参照。
カルタヘナ法とは:農林水産省
米国の規制機関、バイオ企業との関係、回転ドア
●遺伝子組み換え作物を規制する機関 ・食品医薬品局(FDA)、環境保護庁(EPA)、農務省(USDA) ・環境保護庁と農務省は、遺伝子組み換え作物による環境の影響を規制する責任がある。 環境保護庁は、遺伝子組み換え作物内部の殺虫成分について監督にあたっている。環境保護庁が規制できるのは殺虫成分だけであり、作物ではない。作物自体を管理しているのは食品医薬品局。 ・除草剤耐性の遺伝子組み換え作物は、環境保護庁にとって環境影響評価の対象外となっている。そのため、環境保護庁は除草剤耐性作物の長期的なリスクを詳細に調査していない。 ・農務省の中で遺伝子組み換え食品の管理を担当しているのは、動植物保険検査局(APHIS)。農務省の監督範囲は、害虫抵抗性作物の各州間の移動や輸入、遺伝子組み換え作物の試験栽培も含まれている。 しかし、農務省はバイテク企業が提出する環境影響評価に基づく作物の規制について、緩和する決定を下してきた。規制を緩和して特許を持つ作物と種子は農務省の監督範囲から除外することで、遺伝子組み換え作物の販売と生産を自由にしてきた。 ・2002年に全米科学アカデミーの委員会は、農務省における遺伝子組み換え作物の監督内容についての評価を行った。 委員会の判断によれば、農務省の決定過程は透明性に欠け、客観的・科学的・公的な評価がほとんど不足しており、職員の能力も劣っている、というものだった。 ●回転ドア ・バイオ企業の幹部たちは、世界各国で監督官庁の役人や議員たちとの関係を培い、政府内部で政策決定の鍵となる地位を獲得している。 ・ある時はバイオ企業にいた幹部が政府機関の内部に移って政策決定を行い、またある時はそれと逆方向に政府機関から企業へと移動するという、"回転ドア"と呼ばれる人事交流を行っている。 ※参考情報『アンドリュー・キンブレル(2009)それでも遺伝子組み換え食品を食べますか? 筑摩書房』
安全性調査、安全性審査
●バイオ企業が行う安全性調査の例(ラウンドアップレディ大豆) ・市場に出される前に、 普通の大豆と、生の状態や煎った大豆ミールでの違いがないか比較。 ・油に含まれる脂肪酸の組成と総含有量をチェック。 ・繊維分、灰分、水分の量を調べ、炭水化物とたんぱく質を比較。 ・特に、通常大豆に含まれる化学物質の中でも、量が多いと有害になり反栄養素として作用する恐れのあるものに注意を払った。 ・競合する市販品種との間で栄養価に差がないことを示すために、ラット、鶏、ナマズ、牛で給餌試験。 などを行い、実質的な差が認められなかった事を確認。 ●規制は製品か、それとも製法によって行われるべきか? ・遺伝子組み換え操作の行われた生物を環境に導入することのリスクの評価は、その生物の特性と導入される環境に基づいてなされるべきで、それが作られた方法を基にして行うべきではない。 規制は製法を基に行われるべきではないという認識は広まったが、規制は製法を基に行われている。 ※参考情報『ニーナ・フェドロフ(2013)食卓のメンデル 日本評論社』
●安全性の審査 ・従来の交配による品種改良では、多くの場合DNAにどのような変化が起こっているか分からない。 これに対し遺伝子組み換えの場合はDNAの変化は完全ではないにしろ、かなり詳しいことが分かっている。 ・遺伝子組み換え作物は環境への影響、食品としての安全性もしっかりと評価されている。 ・安全性審査が開発企業によるデータだから信用できない、管轄官庁が実施すべきといった論調もあるが、医薬品も製薬企業のデータを基に審査している。 ●アレルギーや発がん性のチェック ・遺伝子組み換え作物に組み込まれた新たなタンパク質や成分がアレルギーやがんなどの悪影響を持たないか調べる必要がある。 ・"意図した成分だけが付け加えられ、意図しない成分ができてはいないか"、"新たに付け加えられた成分に毒性がないか"を検討する。 ・新たに加わったタンパク質や成分は通常微量であるため、遺伝子組み換え作物からこれらの物質を抽出して遺伝子や細胞、そして実験動物を使って試験が行われる。 一方、遺伝子組み換え作物をそのまま実験動物に食べさせる実験はほとんど行われない。それは、遺伝子組み換え作物の中の新たな成分が微量であるため、実験動物の餌に遺伝子組み換え作物を混ぜる程度ではその成分の影響はほとんど見られないという"感度の悪さ"のため。 ※参考資料『小島正美(2015)誤解だらけの遺伝子組み換え作物 エネルギーフォーラム』
●GM作物の安全性評価に長期給餌試験が必要か? ・パリ大学のアニェースE.リクロシュ(Agnes E. Ricroch)が、2013年にNew Biotechnologyに掲載した論文に書かれている。 GMOが餌として与えられた17件の長期動物給餌試験報告と、16件の多世代動物試験報告を精査した結果、異なる動物へのGM作物品種の給餌が、健康へ悪影響を及ぼした例は一件もなかった。 ・データからは"遺伝子組換え作物品種に対して、更なる食品安全試験が必要だとする証拠は提供されなかった"と結論付けている。 ・著者らは"90日間長期給餌試験を実施した結果、さらに合理的な疑いが認められる場合を除き、個別対応でそのような長期試験を行う必要はない"と述べている。 ※Q&A詳細|バイテク情報普及会
審査、規制がバイオ企業に有利では?
●巨大バイオ企業が監督官庁を操り、規制、審査を緩くしている? ・遺伝子組み換え小麦は市場に出せていない。 ・市民とメディアから強い反対が出ればそれに抗うことは困難。(遺伝子組み換えジャガイモなど) ・各種規制の強化によって、そのコスト(安全性の審査、環境への影響調査)を負担できる巨大企業しか参入できないようになっている。逆に巨大企業が有利になっている? ●なぜ信用されないか? ・ラットでがんが発生したなどの危険を示す論文が出るたびに、マスメディアが派手に報道する。 こうした論文は後に、証拠不足や研究手法の不備が見つかり、科学者の間ではその結論が否定されるが、一度世間に広まった不安を消去するのは難しい。 ・バイオ企業と規制当局の距離が近すぎることや、"回転ドア"と呼ばれる両者間の人事交流、政治的なロビー活動、バイオ産業から資金提供を受けた科学研究などが、消費者にとっては懸念材料となっている。 その結果、バイオ企業、規制当局、政府、科学者のいずれもが信用できないと思われてしまっている。 ※参考資料『小島正美(2015)誤解だらけの遺伝子組み換え作物 エネルギーフォーラム』
●バイテク植物形質の発見から開発、承認までにかかる費用 ・2011年に実施された調査によると、2008年から2012年の間に導入された新たなバイテク植物形質の場合、発見から開発、承認までにかかった費用は、一つの形質あたり、1億3,600万ドルであったされている。 平均すると、総費用の26%(3,510万ドル)が規制試験や規制プロセスに関連して発生した費用。 ・同じ調査から、発見プロジェクトの開始段階から商業化までに要した期間は、平均して13年であったとされる。 製品開発において最も時間がかかるのは、規制科学や登録のための活動段階で、2011年に導入された形質の場合、約5年半かかっている。 ・新たなバイテク作物の商業化にかなりの費用がかかるため、官民間のパートナーシップが必要となる。 ※Q&A詳細|バイテク情報普及会