自然の摂理、未知の危険性、従来の育種技術との違い

遺伝子組み換え作物が自然の摂理に反する、未知の危険性がある、という懸念の声をよく聞きます。従来の育種技術との違い等含めた関連情報についての情報をメモ書きしています。

※目次をクリックすると目次の下部にコンテンツが表示されます。

  1. 遺伝子の挿入方法
  2. 自然の摂理、従来の育種技術との違い
  3. 遺伝子組み換え生物による未知の危険性
遺伝子の挿入方法

・アグロバクテリウムと呼ばれる微生物を使う。
 野生のアグロバクテリウムは植物に感染し、自身のDNAを植物のDNAに挿入し、その結果、自分の栄養をつくらせるなど植物の性質を変化させる能力を持っている。
 この微生物の能力を利用して加工したDNAを、狙いとする植物のDNAに挿入する。
 
・遺伝子組み換えに成功した細胞は肉眼ではわからないため、遺伝子が組み込まれた細胞を選抜する必要がある。
 挿入するDNAに抗生物質耐性を示す遺伝子を入れておき、あとで抗生物質にさらすと組み換え細胞は生き残るので、選抜できる。(今日では、抗生物質とは関係ない新しいマーカー遺伝子を使用している)
 
・導入したいDNAを植物のDNAの好きな箇所に入れられるわけではない。場合によっては植物の遺伝子を分断してしまうこともあり、DNAの入る場所によっては、植物の性質が予想外に変わることもある。目的とする植物を選抜する必要がある。
 
アグロバクテリウムからプラスミド(運び屋DNA)を取り出す
→プラスミドを取り出し、その一部を切り取る。
→有用遺伝子を取り出し、プラスミドにつなぐ。
→プラスミドをアグロバクテリウムに戻す。
→アグロバクテリウムを植物細胞に接触させる。
→有用遺伝子が取り込まれて組み換えが起こる
→選抜、培養
 
※参考情報『小島正美(2015)誤解だらけの遺伝子組み換え作物 エネルギーフォーラム』

 

①遺伝子銃
 
微小な金やタングステン微粒子に導入したい遺伝子を塗布して、"遺伝子銃"で植物の細胞組織に打ち込む。
 微粒子から分離した遺伝子が染色体の中に組み込まれて、細胞の形質が変化する。
 
②アグロバクテリウム
 
"アグロバクテリウム"という細菌を使って遺伝子を組み込む。
 
・上記いずれの方法も、遺伝子が染色体のどの位置に入るのかは、やってみなければ分からないという問題がある。
 目的とする遺伝子を必ず的確な位置に挿入することはできないので、予想もしていない結果がもたらされる可能性がある。
 
※参考資料『アンディ・リーズ(2013)遺伝子組み換え食品の真実  白水社』

自然の摂理、従来の育種技術との違い

●種の壁を越えた遺伝子の挿入は自然の摂理に反する?
 
・あらゆる生物は共通の遺伝子を持っており、遺伝子の移動は自然界の生物間で実際に見られる現象。
 それを応用したのが遺伝子組み換え技術であり、自然の摂理に反したものではない。
 
・進化はそもそも生物間で遺伝子の移動があったから実現した。
 
・いまのトウモロコシは、昔のトウモロコシの原種とは似ても似つかぬもの。遺伝子組み換え技術以前にも品種改良で遺伝子の組み換え(遺伝子の配列の変化)はあった。
 
※参考情報『小島正美(2015)誤解だらけの遺伝子組み換え作物 エネルギーフォーラム』

 

●自然の摂理とは?他の育種技術と遺伝子組み換え技術との違いは?
 
○ゴールデンライスとライ小麦
 
・ゴールデンライス
種が違うイネとラッパスイセン両方の遺伝子を持つ。
分子的手法で実験室でつくられた。
遺伝子組み換え作物として遺伝子汚染と非難。
 
・ライ小麦
別の種に属する小麦とライ麦をかけ合わせてつくられた。
化学的手法で実験室でつくられた。
自然食品コーナーに並べられている。
 
○グレープフルーツ
 
・果肉が赤い品種リオレッド
グレープフルーツの芽に熱中性子線を照射して作られた。
 
・ピンクグレープフルーツ
一本の突然変異の樹から作ったクローン
 
○現在の小麦
 
・放射線で変異させられた品種。
・放射線によって遺伝子に何が起こったのかは解明されていない。
 
○プロトプラスト培養法
 
酵素を使って細胞壁を取り除く。プロトプラスト
→壁をはがされたプロトプラストは弾力にとんだ細胞膜に包まれており、分子やウィルス、DNAが入った核のような細胞の部品を、一瞬だけ膜を突き破って注入させることができる。
→その後適切な条件で培養すると、プロトプラストは細胞壁を再生
→分裂、新しい遺伝形質を持った植物に成長
 
○プロトプラスト融合
 
・2002年、北海道大学 木下俊郎、森宏一
アジアイネとOryza属の近縁種の交配
 
イネの種子から作ったプロトプラストを特定の化学物質で処理
→4℃で冷やし細胞が分裂しない状態に維持
→試験管の中に野生種のプロトプラストと栽培種のプロトプラストを並べ、電流を流す
→二つのプロトプラストが融合
→融合細胞にガンマ線
→その後は一般的な組織培養に従い増殖、植物に成長。
 
○組織培養
 
・組織培養は植物の個体から組織を取り出し、培養して増殖させる技術で、さらに細胞の形で培養するのが細胞培養。
 
・組織培養の手法で育てた植物は、それらが全てそっくり同じものになるわけではなく、植物の種類、年齢、どこから採った組織なのか(根の先、葉、葯など)、試験管に入れるホルモンや栄養素のバランス、培養時間によって、さまざまな突然変異が生じる。ソマクローナル変異
 
・ソマクローナル変異を利用して作られた除草剤耐性作物もある。
クリアフィールド・コーンはイミダゾリノン系除草剤パトリオットに耐性があり、グリホサートに耐性を持つ品種もある。
 
○放射線
 
・植物に突然変異を引き起こす
・X線、ラジウム、ガンマ線、高速中性子、熱中性子
・クレソと呼ばれるデュラム小麦
中性子やX線を種子に照射することで作られた二つの品種をかけ合わせてつくられた。
・ゴールデンプロミスという品種の大麦
既存品種にガンマ線を照射して作られた。
・世界中で栽培されている数百品種のパン小麦のうち、およそ200品種は、X線、ガンマ線、中性子線、さまざまな化学物質を使って作られたもの。
 
○化学物質
 
・新しい変異を誘発
・コルヒチン
殺虫性の物質、植物の染色体を倍化させる性質(ゲノムがコピーされるとき、二組のゲノムを一つにまとめたままにする)、細胞の分裂を妨害
・ライ小麦、種なしスイカに利用
 
●トランスポゾン、動く遺伝子
 
・すべての遺伝子が染色体上でその位置が固定されているわけでなない。
 解離遺伝子や活性化遺伝子のように、あるものは同じ染色体上の新しい場所に跳ぶことができる。別の染色体に移動することもできる。
 
・ゲノムは、トランスポゾンと、染色体の外で増えてから再挿入されるレトロトランスポゾンと呼ばれるトランスポゾンの親類によって満たされていることがわかっている。
 ヒトゲノムのほぼ半分と、トウモロコシゲノムの4分の3はトランスポゾンとレトロトランスポゾンからなっている。
 
・トランスポゾンは、染色体の再編成と遺伝子の移動の要。
 
・遺伝子は変化することができる。遺伝子は、重複し消失することができる。ゲノムはかき混ぜられる。
 すぐ隣にある遺伝子やゲノムの周辺環境が遺伝子の発現に影響を与えることはあるが、遺伝子が何をするかは、それがどこにあるかよりもそれが何であるかにかかっている。
 
・植物にX線やガンマ線を当てる事により、あるいは、カルス細胞の塊やプロトプラストから完全な植物体を再生する組織培養を通じて、同じプロセスを開始させることができる。遠縁の植物間で行った交配でもしばしば同じ結果をもたらす。
 遺伝子組み換え技術以外の従来の育種方法においても、ゲノムを撹乱したり位置を替えたりする事によって植物の進化の速度を上げることを行っていた。
 
※参考情報『ニーナ・フェドロフ(2013)食卓のメンデル 日本評論社』

 

●種の完全性、独立性を損なわないか?
 
・ごく最近まで、それぞれの種は遺伝学的に固有で、"他から区別"され"独立"していると考えられていた。
 しかし、今日の広範なゲノム解析研究により、種を超えての遺伝子の転移は、これまでに考えられていたよりも、はるかに多く、また広範に生じていることが分かってきた。
 このことは、植物への遺伝子導入が、実際には特別目新しいことではなく、自然界で起きている現象と何ら変わりがないことを示している。
 
・遺伝子組換えでは、"種"の中の僅かな数の品種に遺伝子導入が行われるだけで、"種"全体に導入される訳ではないので"種"の自立性は依然として保たれる。
 
※Q&A詳細|バイテク情報普及会

遺伝子組み換え生物による未知の危険性

○挿入した遺伝子がどこに入るかわからず、眠っていた遺伝子が動き出して、たとえば、環境変動に弱い性質の作物が誕生するかもしれない
 
・ゲノム上の特定の場所に狙い通り遺伝子を組み込むことはできないが、実際にどこに組み込まれたかは正確に突き止めることができる。
 
・大量の二次代謝産物を解析できる高感度メタボロミクス解析(細胞の活動で生じる代謝物を網羅的に解析すること)を行うことができ、ターゲットとは別の遺伝子が何らかの影響を受ければ簡単にそれを突き止めることができる。
 変えるつもりのない遺伝子や生体プロセスに変化や混乱が生じるとすぐに分かる。
 
・科学者は、遺伝子がどのようにふるまうか、どこに組み込まれたのか、そして何に影響を与えているのか、よく把握している。
 
・ゲノムとは動的なものであり、常に変化し、変異し、拡大し続けている。自然界でも可動性DNA、ウィルス、そのほかの物質がゲノムのまわりにいくらでも存在している。
 生物の変化にまつわる最大の不確実性は、人間が行う遺伝子組み換えではなく、予測ができず、追跡も困難な変化をゲノムに引き起こす、可動性DNAなどの天然の因子。
 
※参考情報『小島正美(2015)誤解だらけの遺伝子組み換え作物 エネルギーフォーラム』

 

○カリフォルニア大学バークレー校 微生物生態学者、菌学者 イグナシオ・チャペラ博士
・遺伝子組み換えに使用されるDNAの断片は特殊なもので、複数の生物から採ったDNAの断片を混ぜ合わせて適合させたもので、きわめて独特な働きをする。このDNAの断片は周辺にあるゲノムの中にも入り込んでいきやすい。
 そして、このDNAの断片はプロモーター遺伝子と一緒に導入されるため、このプロモーターの作用によって他の遺伝子よりも発現しやすくなる。
 
※参考資料『アンドリュー・キンブレル(2009)それでも遺伝子組み換え食品を食べますか? 筑摩書房』

 

●未知の危険性、制御の困難
 
・今では一つの遺伝子によって、複数のタンパク質が生じる可能性が分かっている。
 
・"遺伝子が独立した情報の単位であり、別の生物に導入しても同じ働きをする"という考え方は1980年代の認識。
 今日では、遺伝子が複雑で相互に関連したネットワークの一部として機能していることが分かっている。
 新たな遺伝子を挿入すると、その遺伝子と受容したゲノムの双方が影響を受け、何が起こるか予測することや生じる結果をコントロールすることは困難。
 
●遺伝子組み換え作物と保険
 
・英国では上位5社の保険会社が2003年に"遺伝子組み換え作物による被害については、サリドマイド、アスベスト、テロなどと同様に保険の適用外にする"と発表。
 
・米国の保険会社も"食品医薬品局による規制がないため、遺伝子組み換え作物は保険の対象にならない"と語る。
 
※参考資料『アンディ・リーズ(2013)遺伝子組み換え食品の真実  白水社』

 

・プロモーターがなければ遺伝子はメッセンジャーRNAに転写されない。もし転写されなけれが、タンパク質に翻訳されない。
 
・植物細胞で働くプロモーターは細菌の中で見つかったプロモーターとは異なり、細菌の遺伝子を植物に組み入れるには、植物細胞で働くプロモーターを加えなければならない。 CaMV35Sプロモーターは植物の中でうまく機能し、遺伝子を頻繁に転写させる。
 
・CaMV35Sプロモーターは"不安定"で、意図された作用に加えて、"厄介な眠れる遺伝物質"を活性化させてしまったり、"大規模なゲノムの再配置"を引き起こしてしまう、という懸念の声がある。
 植物のDNAには多数のトランスポゾン(動く遺伝子)を持っていて、ほとんどのトランスポゾンは休眠状態。
  ↓
CaMVプロモーターは、植物以外ではうまく作動しない。万一人間で作動したとしても、がんを誘発するには、人間の細胞に入り込み、ヒトゲノムの正しい場所に挿入され、がん遺伝子のスイッチが入らなければならない。
 実験科学者達は意図的にT-DNAを挿入した実験を行っているが、ほとんどの場合、新しい遺伝子の挿入は何の影響も無く、正常に育っている。
 変異を起こす挿入もいくつかあるが、形態や生長、生殖の仕方に目に見える変化を引き起こすのは1~2%。
 トランスポゾンの挿入についてもほとんど大した変化を引き起こさない。
 新しい遺伝子挿入をもつ植物の大多数は、そしてその子孫もまた同様に、まったく変化を引き起こさない。
 植物の生長や生殖の仕組みは、ひとつの遺伝子が壊される、あるいは活性化されることでは、憂慮するほど影響は受けない。遺伝子の位置は、決して重要でないということはないが、その遺伝子が何であり、何をコードしているかと比べれば、それほど重要ではない。
 
※参考資料『ニーナ・フェドロフ(2013)食卓のメンデル 日本評論社』

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

このサイトはスパムを低減するために Akismet を使っています。コメントデータの処理方法の詳細はこちらをご覧ください