和牛子牛の哺乳・育成の概要

和牛子牛の哺乳・育成の情報をメモ書きしています。
※参考資料
公益社団法人畜産技術協会 | 和牛子牛を上手に育てるために―和牛子牛の損耗防止マニュアル―

※目次をクリックすると目次の下部にコンテンツが表示されます。

  1. 自然哺乳
  2. 人工哺乳
  3. 超早期母子分離のメリット、デメリット
  4. 妊娠中の母牛の管理
  5. 哺乳期の管理上の注意点
自然哺乳

●母牛と一緒の自然哺乳
 
・分娩後、離乳まで母牛の授乳に任せて哺育・育成するため、母牛の泌乳能力・哺育能力が子牛の発育に影響する。
 
・黒毛和種の泌乳量は、分娩後1~3週でピークに達し以後漸減する。母乳に依存できるのは4週齢までで、以降は母乳だけでは発育に必要な養分量が不足する。
 良好な発育を確保するためには、生後1週齢あたりから別飼い飼料に慣らし、十分食い込めるようにする。
 
・母牛の分娩後の繁殖機能回復は、泌乳量の少ない個体では発情再帰が遅延する。
 これは泌乳量の少ない個体で哺乳回数が多くなり、授乳による吸乳刺激が多くなることから卵巣での卵胞発育が遅れ発情再帰の遅延をもたらすことによる。
 
●母子分離管理による自然哺乳
 
・以下の効果を期待できる。
 ・別飼い飼料の採食促進による子牛の発育促進効果。
 ・親子放牧における子牛の過剰運動によるエネルギーロスの軽減。
 ・飼養環境から受ける不良感作からの子牛の保護。
 ・授乳などによる母牛の生理的な負担の軽減による分娩後の受胎促進効果。
 
・親子の同居時問を限定し哺乳時間を制限する哺乳回数制限(1日1~2回)と、親子を柵で仕切り、柵越しに哺乳させる棚越哺乳がある。
 
・制限哺乳による母牛の繁殖機能回復促進効果は、哺乳時間又は哺乳回数を制限することで、吸乳刺激を少なくすることにより、卵巣での卵胞の発育を促すことによるものである。
 
※離乳時期
生後に母子分離・人工哺育した子牛は、4~8週齢で第1胃が急速に発達して揮発性脂肪酸(VFA)濃度が上昇することから、自然哺乳においても生後7日目頃から別飼いとして固形飼料(濃厚飼料、乾草)に慣らし、自由に摂取できるようにする。

人工哺乳

母牛の繁殖機能の回復促進と、子牛発育の斉一化および損耗防止に期待して、人工哺育方式が現在広がりつつある。
 
●早期母子分離による個別管理下における人工哺乳
 
・初乳摂取後、代用乳(液状飼料:粉状のものをお湯に溶いて与える)及びカーフスターター(離乳用濃厚飼料:人工乳)を給与して人工哺育する方式で、主としてカーフハッチで管理する場合が多い。
 
・初乳の給与は、娩出後できるだけ早く摂取させることが、その後の病気感染やこれによる発育停滞を防止するうえで重要である。
 
・代用乳の給与方式には定量給与法と漸増漸減給与法とがある。
 漸増漸減給与法は、哺乳前期には代用乳を重点的に給与し、後期においては代用乳の給与量を抑えた方が定量給与に比べて発育および固形飼料の摂取量が多くなるという根拠によるものである。
 
●哺乳ロボットによる群管理下での人工哺乳
 
・哺乳ロボットを利用して代用乳を給与するもので、子牛の群飼いによる人工哺育が可能になる。
 
・一般にカーフハッチで個別管理した後、哺乳ロボットによる群管理に移行することが多い。
 この時に子牛は強いストレスを受けるので、ストレスができるだけ軽減できるように群の頭数・編成や飼養管理に配慮する。
 
・子牛の群管理下においては、水平感染により病気が広まりやすいことから、哺乳ロボットの乳首を始めとして衛生管理を徹底する。
 
・哺乳ロボットで群哺育した子牛は、離乳後に群での飼養管理に適応しやすいが、カーフハッチで個別哺育した子牛を離乳後に群で飼養管理する場合、初期は少頭数で飼育し、群飼いに徐々に慣らすことで事故を少なくする。

超早期母子分離のメリット、デメリット

●超早期母子分離とは?
 
・分娩後1~6日に母子を分離して管理する方法のこと。
・母牛の繁殖成績の向上と同時に子牛の発育促進も推進する必要がある。
 
●メリット、デメリット
 
①メリット
・母牛による乳量格差がないので子牛の発育が一定になる(斉一性が高まる)。
・下痢が減少する。
・下痢の治療も断乳、経口補液や投薬などが容易となる。
・子牛の第1胃の発達が早まり、飼料摂取も活発になる。
・哺乳ロボットの導入等により大規模化が可能。
 
②デメリット
・哺乳のための朝夕の作業が増える。
・代用乳・カーフスターター(離乳用濃厚飼料:人工乳)に余分の経費がかかる。
・カーフハッチや哺乳ロボットの設置に経費がかかる。
・カーフハッチ、子牛管理用に別のスペースが必要になる(ただし、母牛を群飼いすることでスペースが確保できる)。
 
※第1胃の発達
第1胃内でカーフスターターが分解されて低級脂肪酸(VFA)が作られ、これが胃粘膜を刺激して第1胃の発達を促進する。
 代用乳の様な液体だけでは食道溝を通って第1胃をバイパスしてしまうので、第1胃の発達が遅れる。

妊娠中の母牛の管理

●分娩前2か月間の母牛の飼養管理
 
・子牛は分娩前2か月間で急速に成長する。
・DM(乾物量)が不足すると、母牛は満腹感が得られないためのストレスを感じ、このストレスの影響で虚弱子牛が生まれることがある。
 
●母牛の群ストレス
 
・群飼いの場合、序列の低い母牛は他の個体からのいじめなどで大きなストレスを抱えることもある。
 このストレスが副腎皮質刺激ホルモン(ACTH)やコルチゾールなどのホルモンを誘発し、母体および胎児の免疫を低下させる。
 
●駆虫とビタミン・ミネラルの給与
 
・分娩前1か月から2週間の間には、母牛への駆虫とビタミン・ミネラルの給与を実施する。
 駆虫は寄生虫の母から子への垂直感染を防ぐだけでなく、母牛の消化・吸収を改善し、乳質や子牛の発育の改善を図る意味もある。
 
・最近では青草を給与する農場が少なく、多くは乾草やラップサイレージを給与しているが、乾草は青草に比べてβ―カロテン、ビタミンAが少なく、さらにビタミンEに至っては1/3程度に減少しているケースが多く、血中ビタミンE濃度の低い母牛が見かけられる。
 乾草主体で飼育する場合は、添加剤などで補ってやらなければ、子牛の発育面でも母牛の繁殖面でも不利になる。
 
・子牛へのビタミンA移行が不十分な場合、成長ホルモン(タンパク質同化ホルモン)の不足が起こる可能性があり、このとき雄子牛ではアンモニアの尿中排泄量が増加するため尿石症の原因となることも考えられる。
 
・分娩時にはビタミンAやEの消耗も激しく、また乳汁中へのビタミンA・Eの移行もあって多くのビタミンA・Eが必要となる。
 
●母牛へのワクチン
 
・母牛に肺炎(RSウイルス、IBRウイルスなど)や下痢(ロタウイルス、大腸菌など)のワクチンを実施することも、子牛の損耗防止には有効である。

哺乳期の管理上の注意点

●自然哺乳の場合
 
・”母牛と一緒”という心理的な優位性と、子牛の哺乳については労力が不要というメリットがあるが、母牛の飼養管理に失宜があると”母乳性白痢”が多発したり、子牛の発育が不良となったりする場合がある。
 
・哺乳という大仕事をするため母牛の負担は大きく、繁殖面で発情回帰の遅延や受胎率の低下などを来すケースも多い。
 
・泌乳期には、母牛の維持に要する養分量に泌乳に要する養分量を加えて給与することになるが、実際には泌乳量を測ることが困難なことから、母牛の腹囲やボディコンディションスコア(BCS)の状態を常に観察して、給与量を加減してやることが重要である。
 
・泌乳期にTDN(可消化養分総量)が不足すると、不足分のエネルギーを補うために体脂肪が動員され、脂肪の不完全燃焼によって発生したケトン体(アセトンなど)が乳汁中に混入して子牛の下痢の原因となる場合がある。
 
・分解性タンパク質を加給すると、第1胃で過剰に発生したアンモニアが乳汁中に混入し、子牛の下痢の原因になる場合がある。
 
・特定の母牛で、決まって生後数日で子牛が下痢を繰り返す場合には、母乳性下痢を疑い、母乳の検査や母牛の飼養管理の適正化を実施する。
 
●人工哺育の場合
 
○個別哺乳
・代用乳の給与量と温度が重要で、特に冬場は温度が低いと消化不良に陥る原因にもなる。
 
○哺乳ロボット、群飼いによる手やり哺乳
・群編成ストレスによる免疫低下の問題が重要。
 
・子牛は群編成後2~3週間は強いストレスにより免疫が低下している。また、そのストレスは群が大きいほど強いと考えられる。

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