採卵鶏のアニマルウェルフェア

採卵鶏のアニマルウェルフェア向上のための管理方法についてメモ書きしています。
※参考資料
公益社団法人 畜産技術協会:アニマルウェルフェア
 
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動物福祉上の問題点

※目次をクリックすると目次の下部にコンテンツが表示されます。

  1. 防疫措置と衛生管理
  2. 採卵鶏の健康管理
  3. 温度環境
  4. 照明
  5. 空気の質
  6. 騒音
  7. 栄養(飼料、水)
  8. 床の表面
  9. 社会的な環境
  10. 羽つつき防止(ビークトリミング)
  11. 飼養密度
  12. 外敵(野生動物)からの保護
  13. 誘導換羽(休産)
  14. 正常行動等の発現を促すための工夫
  15. 取り扱い
防疫措置と衛生管理

・鶏舎ごとの消毒槽の設置
・鶏舎ごとに長靴を交換

採卵鶏の健康管理

・鶏の健康状態(羽毛・鶏冠・脚の状態、栄養状態、疾病・傷の有無、行動等)に異常等がないかを把握する。

温度環境

・鶏にとって暑すぎる場合は、飼料摂取量の減少、パンティング(口を開けての呼吸)、産卵率の著しい低下、羽翼を広げる動作等が見られ、逆に、寒すぎる場合は、飼料摂取量の増加、羽毛の逆立ち、硬直、震え等の行動が見られる。
 
・コンピューター制御で自動管理が行われている強制換気型鶏舎では、機器に表示される数字を確認するだけでなく、舎内の実際の温度環境の測定・記録や鶏の状態・行動等の観察を行う。

照明

・鶏は、長日性の動物であり、日長時間の変動によって性腺刺激ホルモン等の分泌が影響を受けることから、光線管理(点灯時間の操作)は、性成熟のコントロール、早春に生まれたひなの換羽防止、産卵率の低下防止に重要な技術。
 採卵鶏には点灯により14~16時間の明期を設けるのが一般的。
 
・照度が高いとつつきなどの敵対行動が多発するので、恐怖やストレスを与えず鶏の健康状態の把握等が適切に行え、かつ管理者が適切に観察や作業ができ、鶏の行動に影響を与えない明るさを保つようにする。

空気の質

・適切な換気等を行い、アンモニア濃度の上昇を抑えて良質の空気を確保する。

騒音

・鶏が慢性的なストレスを抱えたり、驚いたりする状況を防止するため、絶え間ない騒音や突然の騒音が発生することを可能な限り防ぐ。

栄養(飼料、水)

・採卵鶏の鶏種や日齢に応じた適切な飼料(必要栄養量)と新鮮な水を給与する。
 
・鶏が十分に摂食、飲水できるように、1羽あたりの給餌器の幅や給水器の設置数等を検討し、不要な闘争等が起こらないように配慮する。

床の表面

・ケージの床は一般には金網状で、その間隔が広いほうが糞は落ちやすくなるが、一方で、鶏が脚を隙間に挟んでけがをしたりするのを防止することも重要。
 
・卵の転がりやすさと鶏の立位時の安定とを考慮した傾斜角度とする。
 
・平飼いの場合は、床をスラットにすれば、糞がその下に落ちるので清潔に保ちやすくなるが、ケージ床と同様に、その間隔は鶏が安定して立つことができる幅が必要。
 床のスラットの幅は、鶏が常時、縦横2本以上の線がつかめるものにすることが推奨される。また、破損個所等がある場合には、怪我の原因となることから日常的な点検が必要。
 
・敷料床の場合には、砂浴び行動が発現できる一方で、糞の堆積による汚染が広がる前に敷料を取り替えるなどの対応が求められる。

社会的な環境

・鶏は周囲の環境変化に敏感に反応し、飼料や活動スペースの確保、社会的順位の確立等のために闘争する習性があり、闘争行動がけがや死亡の原因となり得るため、育雛舎から成鶏舎への移動など異なる群で飼養されていた鶏を一緒にする場合は過剰な闘争が起こらないよう注意する。
 
・一旦闘争を始めると、酷いときには総排泄口から腸を引き出すなどして相手を死亡させるまでつつく(カニバリズム)こともあるので、音や光などによる不要な刺激を与えないことも重要。

羽つつき防止(ビークトリミング)

●羽つつき、カニバリズム
 
・雛を群で飼養すると、およそ2~3週齢の頃から尾羽やその付け根の部分の羽毛をつつき合ったり、羽毛食いをしたり、他の雛をつついて傷つけるものが出て、放置すると全群に広がる。
 つつきを受けた鶏は、ストレスにより飼料の摂取量や産卵率が低下したり、けががひどい場合には死亡したりすることがある。
 
●羽つつき、カニバリズムの対策
 
・選抜育種の段階でより穏和でおとなしいものを選抜する。
・飼養管理下では、飼養スペースの拡大、けがをした鶏やつつきをする鶏の分離、光線を遮る。
 
●ビークトリミング(嘴の先端を切り取ること)
 
・開放型鶏舎では、照度等の影響から、攻撃的なつつきが発生しやすく、一旦発生すると被攻撃個体は重篤な状態になることが少なくない。
 上記のような措置により羽つつきを防止できない場合は、ビークトリミングを行うこともやむを得ない手段の一つ。
 
・ビークトリミングの利点は、嘴の先端の鋭利な部分がなくなることによるけがの発生防止、慢性的なストレスの減少による産卵率の向上、死亡率の減少等がある。
 
・一方、ビークトリミングを実施した鶏は、トリミング直後に飼料を摂取できないこともあるので留意する必要がある。
 
・ビークトリミングは、餌付け後10日以内の鶏に実施することとし、鶏に可能な限り苦痛を感じさせない方法をとることとする。
 
・ビークトリミングが不十分な個体は、嘴が再生され羽つつきの予防効果が期待できず、第2段階のビークトリミングが必要となる場合もあるので注意が必要。

飼養密度

・飼養密度が高い場合、鶏にとってストレスとなり、羽毛つつきの発生やそれに伴う死亡率の増加、生産性の低下等の原因となるため、鶏をよく観察し、飼養スペースが適当かどうかを判断する。
 
・日本で比較的多く使用されている従来型の2羽用バタリーケージでは450cm2/羽前後が一般的だが、EUやアメリカの一部の州では、エンリッチドケージでの750cm2/羽以上の面積が求められている。
 大型の群飼ケージの場合には、1羽を減らすだけでも死亡率の減少や1羽あたりの生産が増加するとの報告もある。

外敵(野生動物)からの保護

・鶏を常に健康な状態で飼養し、恐怖等によるストレスを与えないため、畜舎内への野鳥やネズミ、あるいはハエなどの有害動物の侵入を防ぐ。

誘導換羽(休産)

・鶏は、産卵を開始して約1年が経過すると、卵質や産卵率が低下し、自然に換羽して休産期に入る鶏が出てくる。
 このため、換羽前に廃用とする場合もあるが、長期にわたって飼養する場合は、栄養制限により人為的に産卵を休ませ、卵質や産卵率を回復させるという手法が採用される。
 
・絶食による誘導換羽は、腸内細菌叢のバランスが崩れる等のリスクも報告されているため、24時間以上の絶食は推奨されず、注意が必要であるとともに、絶水は行わないこととする。
 
・近年では、低カロリー・低蛋白飼料を給与しながら換羽を誘導する方法が開発されている。

正常行動等の発現を促すための工夫

・鶏の正常行動の一つとして、砂浴びやパーチング(止まり木に止まる行動)、産卵前の独特の行動等があり、鶏の中に強い行動欲求があることが知られているが、バタリーケージで飼養されている鶏はその行動が発現できない。
 しかし、それらの設備を備えたエンリッチドケージを新規に導入するには経済的負担が大きいので、バタリーケージに簡易な改良を加えて、最小限の行動欲求を満たすような工夫をすることが求められる。
 
※EUでは、2012年以降、採卵鶏をバタリーケージで飼育することが禁止され、巣箱や砂浴び場、止まり木、爪研ぎなどの設備を備えた施設で飼育することが義務付けられている。 また、アメリカでは、鶏卵を扱う主要企業(外食産業や卸売業者等)が、ケージ飼育する生産者からの卵の購入を制限する動きや、大手生産者がケージ飼育から平飼いなどに転換するといった動きが増え、さらにいくつかの州ではこれらを法的に義務づけるなど、世界的な流れとして採卵鶏のケージ飼育が問題視されている。
 代替システムとして、ケージの利点を生かしつつ巣箱などの設備を備えたウェルフェア型のケージ(ファーニッシュドケージ)と、多段式のエイビアリーシステムなどがある。
 
※ファーニッシュドケージ(エンリッチドケージ、モディファイドケージ、ウェルフェアケージ)
ファーニッシュドとは、家具や設備が整っているという意味で、ここでは巣箱や砂浴び場、止まり木、爪研ぎ器などが備わったケージのことを指す。
 このシステムは、鶏を糞から分離して衛生的に保てるというケージの利点を生かしつつ、”正常な行動ができる自由”を保証しうるので、従来のケージが持つ欠点を補えるものとして開発された。
 しかし、グループサイズが大きくなると、巣箱や砂浴び場を利用するための競争により敵対行動が増加し、とくに弱い個体が利用できずに結果として生産性も低下することが一部で報告されている。したがって、ケージサイズと飼養羽数との兼ね合いが重要となる。
 
※エイビアリー
動物園などにある鳥類の大型飼育檻を一般にエイビアリーとよぶが、ここでは、屋内に止まり木を設置した休息エリア(通常は給餌器・給水器もここにある)、巣箱を設置した産卵エリア、砂浴びが出来る運動エリアなどを備えた平飼い鶏舎のことで、休息エリアが数段ある立体的な構造が一般的。
 多段式ワイヤーフロアシステムとよばれるものも、エイビアリーの1つ。
 エイビアリーでは、これらの施設を設置するための初期コストや維持コストが従来のケージシステムよりは高くなるが、多段式にすることで鶏舎の容積を無駄なく使え、ケージ列間の通路なども不要なので、坪あたりの収容羽数はケージシステムと比べても遜色なく飼養することが可能。
 鶏は、本来は夜間に止まり木で休息・睡眠を行い、産卵は囲われた巣で行う習性を備えている。エイビアリーでは、それらが十分に発揮でき、かつ集約的に飼養できるシステムといえる。より高いレベルでのウェルフェアを考慮した場合は、屋外に運動場を設けて、日中は自由に出入り出来るようにすることもある。

取り扱い

・鶏を捕まえる際に片足や片翼を引っ張ったり、捕まえた後に両翼を背で交差させるいわゆる羽交い締めは、AW上、好ましくないので避ける。

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