農薬と野生生物、農場労働者

農薬が野生生物、農場労働者に与える影響についての情報をメモ書きしています。

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  1. アトラジン
  2. 有機リン系の殺虫剤、殺菌剤
  3. 蜂群崩壊症候群(CCD)、農薬の蜂への影響
  4. 野生生物への影響
  5. 農場労働者への影響
アトラジン

●アトラジンの概要
 
・トリアジン系除草剤。
・世界で最も多く使用される除草剤の一つ。EUでは使用が禁じられている。
・作用機構は、光合成での電子伝達系の阻害。

・アメリカで最も一般的に使われている除草剤の一つ。
・両生類の大量死のほか、人間の心臓や肺の鬱血、筋攣縮(れんしゅく)、網膜の変性やがんとの関連が指摘されている。
 
※参考情報『ポール・ロバーツ(2012)食の終焉  ダイヤモンド社』

有機リン系の殺虫剤、殺菌剤

※以下の記事も参照。
害虫防除の概要の”殺虫剤の作用機構”、”殺虫剤の分類”

・神経細胞を絶えず刺激することによって害虫の中枢神経系を撹乱させる。
 
・人間の皮膚や眼球、粘膜などを簡単に通り抜けることができるため、不整脈、胃腸および膀胱の激しい収縮、発作、精神障害、心肺機能の低下、筋肉の機能不全、昏睡などを引き起こす。
 
・殺虫剤は、ハチや害虫を捕食する益虫、土の中に住む微生物なども殺してしまうことがある。
 
※参考情報『ポール・ロバーツ(2012)食の終焉  ダイヤモンド社』

野生生物への影響

●集約農業と野生生物
 
・畑のこぼれ種が激減。野鳥が激減。
・世界の食料の90%を占める作物の約70%がハチの受粉に頼っていると国連は推定している。
・農業が工業化された結果、作物の受粉を担うハチが消えた。農家はお金を払ってハチを借りている。受粉ビジネス。
 
●オオカバマダラ(モナーク)
 
・北アメリカでは渡り鳥のように渡りをするチョウとして有名。
 
・オオカバマダラの幼虫は主にトウワタという雑草の葉を食べるので、成虫はこれ以外のものには産卵しない。
 
・1996年以降、遺伝子組み換えで除草剤に耐性のあるダイズとトウモロコシが開発され、その結果、強い除草剤が畑にまかれるようになり、トウワタは駆逐されてしまった。
 
・違法伐採のせいでメキシコの越冬場所が破壊されようとしている。
 
※参考情報『ポール・ロバーツ(2012)食の終焉  ダイヤモンド社』

農場労働者への影響

・農業に従事する人達は、農薬の混合、農薬処理された作物の植え付け、除草、収穫、加工を行ったりする。
 
・農場労働者とその家族は農薬が使用された畑やその近くで生活していることが多いので、農薬への暴露の危険が高い。
 
・農薬中毒として届けられたケースのほとんどは、空中に浮遊する農薬によるもの。
 
・農薬関連の病気は急性中毒からがん、発達障害、男性の不妊症、出生異常など、原因を突き止めるのが難しい症状まで様々。
 
※参考情報『エリック・シュローサー(2010)フード・インク 武田ランダムハウスジャパン』

蜂群崩壊症候群(CCD)、農薬の蜂への影響

●蜂群崩壊症候群(CCD)
 
・蜜蜂が越冬できずに消失したり、働き蜂のほとんどが女王蜂や幼虫などを残したまま突然いなくなり蜜蜂の群が維持できなくなる。
・欧米では、2000年代から多く報告されている。
 米国では、問題が明らかとなった2006年以降、5年連続で蜜蜂の群れの3割以上が越冬できずに消失し、2011年の冬にも22%の群れが越冬できなかったと報告されている。
 
●CCDを含む蜜蜂の減少の要因
 
欧米豪では、以下の要因が複合的に影響していると考えられている。
 
・ダニ等の寄生虫や害虫
・病気
・栄養不足
・農薬
・周辺環境の変化
・異常気象
 
●欧米の対応
 
・2013年5月、欧州委員会が、蜜蜂への危害を防止するため、ネオニコチノイド系農薬について、蜜蜂の被害につながる可能性のある方法では使用させないことにした。
・2015年、米国環境保護庁(EPA)は、4種類のネオニコチノイド系農薬の新たな使用方法を承認しないこととした。既に登録されている使用方法を変更する予定は、今のところない。
 
●日本の状況
 
○CCD
・CCDは報告されていない。
 
○農薬による蜜蜂の被害
・2013年度には69件、2014年度には79件、2015年度には50件の被害の報告があった。
・都道府県に被害を報告した蜂場(養蜂家が巣箱を置いた場所)に被害発生当時置かれていた巣箱数の合計は約3,000箱で、前年の8~9月の全国の巣箱数(おおよそ40万箱)の1%未満にあたる。
・巣の周辺で採取される1巣箱当たりの死虫数が1,000~2,000匹という比較的小規模な事例が多くを占めていた。
 一般に巣箱1箱当たり数万匹の蜜蜂がいるとされており、女王蜂は多いときには1日に2,000個程度の卵を生んでいるので、養蜂家の飼養管理により、蜂群が維持・回復するといわれている。
・被害の発生は水稲のカメムシ防除の時期に多いこと、巣箱の周辺で採取された蜜蜂は、殺虫剤を直接浴びた可能性が高いことが分かった。
 
●ネオニコチノイド系農薬
 
○ネオニコチノイド系農薬の特徴
・カメムシのような吸汁害虫に対して優れた防除効果を持つ。
・カメムシの防除に使われる他の殺虫剤に比べて、人に対する毒性が弱いので、水田で働く人が自分の健康や米を食べる人の健康を考慮にいれた場合に使いやすい。
・水生生物に対する毒性も弱く、水田の下流に位置する河川や養魚池などへの影響を心配する必要もない。
・他の殺虫剤の中には、油に溶けやすく、稲に使用すると稲わらを餌とする家畜の肉などに残りやすいため、使用時に注意が必要なものもあるが、ネオニコチノイド系農薬は、油に溶けにくく畜産物に残りにくいものがほとんど。
 
○ネオニコチノイド系農薬の日本での使用状況
・稲、果樹、野菜などに、イミダクロプリド、クロチアニジン、チアメトキサム、ジノテフランの4種類のネオニコチノイド系農薬が幅広く使用されている。
 
●日本での対策
 
○欧米との違い
・日本では、欧米のように農薬の粉塵が広範囲に巻き上がるような方法では播種していないため、種子処理や土壌処理への使用の制限は不要。
 欧米では畑地での大型機械による播種作業が多く行われており、種子処理(種子の表面に農薬の粉末をまぶしたり、農薬の溶液に種子を浸したりして、種子の表面に農薬を付着させる処理)の際に種子にコーティングされた農薬が剥がれ落ちたり、土壌処理(粒状の農薬を作物ではなく土壌に散布する処理)で粒状の農薬が土壌に施用する際に壊れたりして、農薬の混じった土が粉塵状に巻き上げられることがある。
 そのため、種子や土壌処理だけに農薬を使用しても、開花期に散布する場合と同様に周辺の花に蜜や花粉を集めに来ていた蜜蜂に粉塵状の農薬が付着し、蜜蜂に被害が生じる可能性がある。
 また、農作物や周辺の作物に農薬が吸収されて、その花粉や蜜を介して蜜蜂に被害が出たりする可能性もあると言われている。
 
○日本での対策
・現在のところ、水稲のカメムシ防除において、カメムシだけに優れた防除効果を持ち、蜜蜂への悪影響が全くない殺虫剤は開発されていない。
 このような農薬を開発するよう奨励。
・農薬を使用する水稲農家と養蜂家との情報共有の徹底、養蜂家の行う巣箱の設置場所の工夫・退避、農家の行う農薬の使用の工夫等の対策の徹底により、蜜蜂の被害ができるだけ生じないように、農薬を使用していくことが重要。
 ・散布の際に巣箱及びその周辺にかからないようにする。
 ・周辺で養蜂が行われているかを確認し、関係機関へ散布時期などの情報を共有。
 
※参考サイト
農薬による蜜蜂の危害を防止するための我が国の取組(2016.11月改訂):農林水産省

 

●蜂群崩壊症候群(CCD)
 
・農業の集約化、特に化学農薬の使用の結果と考えられている。
 特に、ネオニコチノイド系の農薬との関連が疑われている。水溶性のニコチン様化学物質で、地面に噴霧され植物に吸収されると、植物を"毒の工場"に変える。
 2013年、EUはハチが好む作物へのネオニコチノイドの使用禁止を決定した。
 
・窒素肥料が使われるようになると、昔ながらのノーフォーク式輪作(麦の後にクローバーを植えて空中窒素を土壌に取り込む農法)は不要になり、ハチが蜜を集めていたクローバーが消えた。クローバーの代わりになる野草も除草剤で根絶やしにされた。巣を作る場所もなくなった。ハチの減少と森林伐採に関係がある。
 
※参考情報『ポール・ロバーツ(2012)食の終焉  ダイヤモンド社』

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