農薬の登録、検査の概要

農薬の登録、検査についてメモ書きしています。

※目次をクリックすると目次の下部にコンテンツが表示されます。

  1. 農薬の登録制度、登録手続き
  2. 検査の仕組み、内容
  3. 提出する試験成績
  4. 登録保留基準
  5. 農薬の試験に関する懸念事項
農薬の登録制度、登録手続き

●農薬の登録制度
 
・農薬は、その安全性の確保を図るため、”農薬取締法”に基づき、製造、輸入から販売そして使用に至る全ての過程で厳しく規制される。
 
・一部の例外を除き、国(農林水産省)に登録された農薬だけが製造、輸入及び販売できるという仕組み。
 
●登録の手続き
 
・病害虫などへの効果、作物への害、人への毒性、作物への残留性などに関する様々な試験成績等を整えて、独立行政法人農林水産消費安全技術センター(以下、FAMIC)を経由して農林水産大臣に申請。

検査の仕組み、内容

●検査の仕組み
 
・申請を受けた農林水産省はFAMICにその農薬を登録しても良いか否かの検査をするよう指示。
  ↓
・FAMICでは、提出された試験成績等に基づいて、農薬の薬効をはじめ毒性や作物・土壌に対する残留性などについて総合的に検査し、農林水産省にその結果を報告。
 
・農林水産省はその農薬を登録するか否かを判断。
 
●検査の内容
 
1)薬効の検査
 
2)薬害の検査
その農薬が、使用した作物とその周辺の作物に対して害を与えないことを検査
 
3)安全性の検査
 
・農薬使用者の安全性、農作物を食べた場合の安全性、散布された環境に対する安全性、に関する検査を行う。
 
・登録申請者は、信頼性のおける試験機関においていくつもの毒性試験、残留試験、環境への影響試験などを行う。
 
●毒性試験
 
①急性毒性試験
・短期間に多量の農薬を摂取した場合の毒性。
・主に農薬を使用する人への影響。
・農薬使用者が農薬に触れたり散布液に被爆した場合のリスクを考慮し、経口以外の暴露経路での毒性試験や刺激性試験等も含まれる。
 
②慢性毒性試験
・少量であっても長期間に農薬を摂取した場合の毒性。
・農薬が使用された農作物を食べる人に与える影響
 
●農作物への残留性
 
・実験動物を用いた毒性試験に基づきヒトに対する摂取許容量を決め、別に行う作物残留試験から当該許容量以下になるような使用方法を策定している。
 
●土壌への残留性
 
・土壌に落下した農薬が蓄積して悪影響を及ぼすことがないよう、土壌中での分解・消失に関する試験に基づき、半減期が一定期間(180日)を超えないように設定し、後作後の汚染を通じたヒトへの健康影響の防止に努めている。
 
●作物や土壌を用いた”代謝試験”
 
・農薬の有効成分は散布した後、作物体や土壌あるいは水中で、光・熱・水分ばかりでなく、微生物や作物体内の代謝によって分解・消失を受ける。
 
これらの過程で農薬の有効成分は様々な物質に変化し、これらの変化生成物が毒性上問題になる場合も考えられることから、作物や土壌を用いた”代謝試験”から主要な変化生成物を特定し、それらについても毒性が調べられる。
 
●水田水中等の残留農薬と安全性評価、水質汚濁に係る農薬登録保留基準
 
・水田で使用される農薬では、作物に散布された農薬が水面に落下し、または直接水田に施用されることにより、水田水中に農薬の有効成分が溶出する。
 この多くは水田の土壌や水中で微生物や光によって分解され、やがて消失するが、かけ流しや落水といった水管理または降雨等によって生ずる水田からの排水に混じって一部が排水路などに流出し、河川を経由して飲料水として摂取されることも考えられる。
 同様に、水田以外の畑地等に使用された農薬による水質汚染も考えられる。
 このようなリスクに対応するため、水質汚濁に係る農薬登録保留基準が定められている。
 
・この基準は2つの場合を想定し、当該農薬の生物濃縮係数が5,000未満の場合は、日本人1人当たりの1日の飲水量を2リットルとし、飲料水経由で摂取する日本人1人当たりの農薬の量をADIの10%の範囲までとする。
 また、濃縮係数が5,000以上の場合は、1日あたりの飲水量に加え、魚類から摂取する量を合算し、ADIの15%の範囲までとなるよう定められている。
 
●環境への安全性評価
 
1)水産動植物への影響
 
・水産動植物に係る登録保留基準は、魚類のコイまたはヒメダカに対する96時間LC50、甲殻類のミジンコ類に対する48時間の半数遊泳阻害濃度および藻類の植物プランクトンの一種に対する72時間の半数生長阻害濃度に基づく急性影響濃度と、公共水域における農薬の水産動植物被害予測濃度を比較し、後者が前者を上回る場合には登録が保留されることになる。
 
・農薬は、通常の使用によって水産動植物に被害をもたらすことはまずないが、農薬使用後の水管理や降雨等によって、河川に不慮の流出が生じないよう注意することが大切。
 
2)有用昆虫等への影響
 
・現在、蚕・ミツバチ・天敵昆虫等の有用昆虫等に対して試験成績が求められ、農薬の使用上の注意に反映されている。
 
①ミツバチ
・養蜂および受粉用昆虫の双方と関係し、前者は航空防除など広域に散布が行われる場合の養蜂への影響、後者はイチゴ等の受粉用にミツバチを使用する場合に悪影響を及ぼさないよう、それぞれ注意が必要。
・ミツバチに対する急性毒性試験および必要な場合にはミツバチに影響する散布後の期間を調査する試験等が行われる。
・使用者により有益な情報を提供するため、必要に応じて他の受粉媒介昆虫(マルハナバチ等)に対する急性毒性試験も行われている。
 
②天敵昆虫等
・天敵昆虫等に対する農薬の影響は、生物農薬としての天敵への影響および土着の天敵への影響、の双方に対応が必要となる。
・農薬登録では、2目3種以上の天敵昆虫等について基礎毒性試験成績が求められるが、近年IPM推進の観点からこれらの情報に対する重要性は増している。
・農薬メーカーでは、自主的により多くの種類の天敵に対して試験を行っている場合が多くある。
 
3)鳥類に対する影響
 
・農薬登録では、使用場面・剤型などを考慮のうえ必要に応じて試験成績が求められる。
 
●その他の安全性評価
 
・農薬中のダイオキシン類等有害混在物が含まれていないかどうかについての試験成績の提出が義務付けられている。

提出する試験成績

(1)薬効に関する試験成績
適用病害虫に対する薬効に関する試験成績
 
(2)薬害に関する試験成績
・適用農作物に対する薬害に関する試験成績
・周辺農作物に対する薬害に関する試験成績
・後作物に対する薬害に関する試験成績
 
(3)毒性に関する試験成績
 
①急性毒性を調べる試験
・急性経口毒性試験成績
・急性経皮毒性試験成績
・急性吸入毒性試験成績
・皮膚刺激性試験成績
・眼刺激性試験成績
・皮膚感作性試験成績
・急性神経毒性試験成績
・急性遅発性神経毒性試験成績
 
②中長期的影響を調べる試験
・90日間反復経口投与毒性試験成績
・21日間反復経皮投与毒性試験成績
・90日間反復吸入毒性試験成績
・反復経口投与神経毒性試験成績
・28日間反復投与遅発性神経毒性試験成績
・1年間反復経口投与毒性試験成績
・発がん性試験成績
・繁殖毒性試験成績
・催奇形性試験成績
・変異原性に関する試験成績
 
③急性中毒症の処置を考える上で有益な情報を得る試験
・生体機能への影響に関する試験成績
 
④動植物体内での農薬の分解経路と分解物の構造等の情報を把握する試験
・動物体内運命に関する試験成績
・植物体内運命に関する試験成績
 
⑤環境中での影響をみる試験
・土壌中運命に関する試験成績
・水中運命に関する試験成績
・水産動植物への影響に関する試験成績
・水産動植物以外の有用生物への影響に関する試験成績
・有効成分の性状、安定性、分解性等に関する試験成績
・水質汚濁性に関する試験成績
 
(4)残留性に関する試験成績
 
・農作物への残留性に関する試験成績
・土壌への残留性に関する試験成績
 
※運命試験
ある物質を動物に投与して、その物質の体内動態(吸収、分布、代謝、排泄等)に関する科学的知見を得るための試験。

登録保留基準

・農薬取締法では、農薬の作物残留、土壌残留、水質汚濁による人畜への被害や水産動植物への被害を防止する観点から国が基準を定めることとされており、申請された農薬ごとにこれらの基準を超えないことを確認して登録することとされている。
 
・これらの基準は、審査の結果、基準を超えると判断された場合には登録が保留されることから”登録保留基準”と呼ばれ、環境大臣が定めて告示することとなっている。
 このうち作物残留に係る基準については、食品衛生法に基づく食品規格(残留農薬基準)が定められている場合、その基準が登録保留基準となる。
 上記基準以下にするための使用方法として、農薬の使用基準を設定する。

登録保留基準

●米国の農薬のリスク評価
 
○マイアミ大学による研究
 
・米国環境保護庁(USEPA)が現在利用している農薬の安全性の評価方法は不十分で、業界が利益になるようなバイアスのある結果となると主張している。
 
・リスク評価で使用されている農薬の毒性試験の殆どは、農薬メーカー自身で実施されている。そして、厳しい選択基準という名目で、米国環境保護庁の評価プロセスから関連研究が閉め出されている、と指摘している。
 
・一貫していない基準の適用や実験研究への過度の依存などがあることも言及している。
 
・この研究チームは、業界と研究に距離を置くために、独立した第三者を立てることが重要と指摘している。
 
※参考ページ
農薬のリスク評価は公平中立ではない?


※参考資料『坂井道彦,小池康雄(2003)ぜひ知っておきたい農薬と農産物 幸書房』
ホクレン農薬.net/農薬の基礎知識
農林水産省/農薬の基礎知識

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