乳用牛のアニマルウェルフェア

乳用牛のアニマルウェルフェア向上のための管理方法についてメモ書きしています。
※参考資料
公益社団法人 畜産技術協会:アニマルウェルフェア

※目次をクリックすると目次の下部にコンテンツが表示されます。

  1. 防疫措置と衛生管理
  2. 乳用牛の健康管理
  3. 温度環境
  4. 照明
  5. 空気の質
  6. 騒音
  7. 栄養(飼料、水)
  8. 床と寝床の表面や屋根の状態
  9. 社会的な環境
  10. 飼養密度
  11. 外敵(野生動物)からの保護
  12. 離乳
  13. 正常行動等の発現を促すための工夫
  14. 取り扱い
  15. 除角
  16. 断尾
防疫措置と衛生管理

・牛がミルキングパーラーから戻る通路にも消毒槽を設置
・繋ぎ飼い牛舎の通路にも消石灰散布

乳用牛の健康管理

・牛の蹄は、起立や伏臥を正常に行うために重要な部分なので、日常的に観察し、定期的に削蹄する。

温度環境

・気象の急激な変化や暑熱・寒冷ストレスに注意し、パンティング(熱性過呼吸)や震え等の行動が生じた場合には原因を特定し、ストレスを軽減できるように対処する。
 
・牛にとって暑すぎる場合は、呼吸数の増加、食欲の減退、乳量・乳質の低下や繁殖成績の低下が見られる。
 このような行動・現象が観察される場合は、直射日光を防ぎ、大型扇風機による送風、屋根への散水、細霧システムの導入、涼しい夜間に給餌する等の暑熱対策を行い、可能な限り適温を維持するよう努めることとする。
 扇風機を適切に設置することで、夏季における15%程度の乳量低下を抑えることができる。
 
・子牛は成牛よりも適温域が高く、寒冷時には体を維持するエネルギー要求量が餌による摂取エネルギーを上回り、発育を阻害することがある。カーフジャケット等の利用で寒冷ストレスを緩和する。
 
・寒冷時は、牛の飲水量が低下する。飲水量が減少すると、乳牛の乾物摂取量が抑えられるので、温熱器を水槽につけることで、十分な飲水量を確保する。

照明

・乳用牛の行動に影響を与えない明るさを保つ。

空気の質

・空気の質の低下は、呼吸の不快性や呼吸器病のリスクの要因となるため、適切な換気等を行う。
 
・空気の質には、ガス、塵、微生物が関係しており、飼育密度、牛の体格、床・寝床・糞尿の管理状態、建物構造、換気システムに依存している。
 特に、アンモニア濃度が高い場合には、それ以外の要因も考えられるので、原因を特定し、対応する。
 
・寒冷時は冷気を牛舎に入れないようにしようとして、密閉しがちになるが、密閉された牛舎では肺炎などの呼吸器病を発生させる原因となる。天気の良い日は、短時間でも外気を取り入れるようにする。

騒音

・牛は、音に敏感な動物であり、過度な騒音は、摂食量の減少、乳量の低下、牛が驚くことにより生じる事故を招くおそれがある。
 
・ストレスを抱えたり、恐怖を覚えたりしないように突発的な音や大きすぎる音を避ける。

栄養(飼料、水)

・乳用牛の発達段階等に応じた適切な飼料(必要栄養量)と新鮮な水を提供する。
 
・農場に合った給餌器の幅や給水器の設置数等を検討し、不要な闘争等が起こらないように配慮する。
 
・粗飼料の給与量が少ない場合、消化器系の不調(アシドーシス、鼓腸、肝臓腫瘍、蹄葉炎)のリスク要因となることがあるので注意する。
 舌遊び行動は、粗飼料不足の一つの指標で、この行動が見られた場合には注意する。
 
・特に搾乳牛では、搾乳後に飲水行動が多くみられる。
 ウォーターカップへ続く給水管が細い場合、搾乳後に集中する飲水行動に給水量が追い付かないことがある。給水管を太くしたり、水道栓から給水管への導入管を増やしたり、給水方向が一方通行にならないように工夫する。
 
※アシドーシス
酸性血症ともいう
 
※鼓腸
腸内にガスが充満して、腹部のふくれる症状。

床と寝床の表面や屋根の状態

・排水のよい快適な休息場所を提供する。
 
・全面が過度に湿っていたり、糞尿がたまっていたりする状態は、疾病や怪我の原因にもなるので、改善することが必要。
 
・立っている状態から寝ている状態になるまでの所要時間は、快適性評価の指標となる。10秒以上かかる場合は問題があると判断される。

社会的な環境

・牛の群内で確立される社会的順位を理解し、混群による過剰な闘争等の危険性を避けるようにする。

飼養密度

・飼養密度が高い場合は、怪我等の発生、増体や飼料効率の低下等の原因となり、通常の行動(移動、休息、摂食、飲水等)にも支障をきたすので注意する。
 
・フリーストール牛舎においては、従来から飼育密度を高めると、牛群に様々な問題が発生することが知られている。
 牛床の数は、1頭あたり1ストール以上を確保する。
 
※フリーストール牛舎
牛をつながずに、自由に歩き回れるスペースを持った牛舎の形態のこと。
 ストールはパイプなどで1頭ずつに仕切られているが、どのストールでも自由に出入りして休息できるため、フリーストールと呼ばれている。これは、個々の牛の休む場所が混み合わず清潔に保たれ、敷料が少なくすむ、給餌場を休息場内に設けられる、などの利点がある。

外敵(野生動物)からの保護

・疾病に罹った状態や分娩時の母牛と子牛のような体力が弱った状態のときには、カラス等から目や肛門への攻撃を受けやすいため注意が必要。
 
・放牧時に、アブやサシバエ等の吸血昆虫からの防除を目的とした群がり行動(体を寄せ合い、頭を中に入れて円陣を組む)が見られる場合は、対策が必要。
 
・断尾された乳用牛は飛来したアブやハエを追い払うことができず、心理的ストレスにより摂食や休息行動時間が短縮することが報告されている。
 牛体汚染を防ぐためには、断尾ではなく尾房トリミングで対応する。

離乳

・離乳は、子牛及び母牛にとってストレスとなるため、牛の生理特性等を十分に理解し、子牛及び母牛への影響が最小限となるように考慮して行う。
 
・離乳は、母牛との心理的関係の断絶、母牛からの世話行動の終了、液体飼料の絶食という3つの要因が重なり、子牛にとって大きなストレスとなる。
 除角、去勢等を同時に実施して更にストレスがかかった場合、獲得免疫系が抑制されて、病気になる危険性が高まるので、十分に注意する。
 
・子牛の柵かじり行動は、吸乳等に関わる欲求不満から発現するので、この行動が見られた場合には飼養方式の見直しを検討する。

正常行動等の発現を促すための工夫

・身繕い器具の設置
 
・運動場の併設。繁留している牛を3日に一回程度引き運動したり、運動場を併設して利用させたりする。

取り扱い

・飼育している個体に名前を付けることによって、その個体に対する観察力が高まる。
 海外の事例では、搾乳牛に名前を付けていた農家では、名前を付けていなかった農家に比べ、1泌乳期あたりの乳量が300リットル多かったことが報告されている。
 
・管理者が搾乳牛に対して怒鳴った回数と乳量等の生産形質との負の相関が報告されている。牛には常に優しい態度で臨むようにする。

除角

●除角の必要性
 
・牛の攻撃性を低下させ、不要なけがの発生や流産等を防ぐ。
牛は、飼料の確保や社会的順位の確立等のため、他の牛に対し、角突きを行うことがあり、けがの発生、流産等の原因となる。
 また、けがやストレスによって肉質の低下に繋がることもある。
 
・牛の角によって、管理者が死傷するといった不慮の事故を防止する。
 
●除角を行う際の注意点
 
・牛への過剰なストレスを防止するため、可能な限り苦痛を生じさせない方法をとることとし、必要に応じて獣医師等の指導の下、麻酔薬や鎮痛剤等を使用することが望ましい。
 
・除角の実施後は、牛を注意深く観察し、化膿等が見られる場合は、速やかに治療を行い、その実施方法を再度チェックする。

断尾

・断尾は、牛体や乳房の汚れにより生乳が汚染されることの防止や、尾による管理者の負傷防止等を目的として行われるが、害虫を追い払うことができなくなり(牛は尾を使って、ハエやアブ、カ等の害虫を追い払っている)、牛がストレスを感じることから、実施しないことが望ましい。
 
・牛体や乳房の汚れを防止するためには、牛床環境の改善やふん尿の適切な処理、尾房の洗浄やトリミング、繋留時に尾を吊り上げておくなどの方法がある。

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