有機農業の病害虫防除に関する基礎知識についてメモ書きしています。
※病害虫防除については以下の記事も参照。
・害虫防除の概要
・病害防除の概要
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基本となる原則
・作物の健康を守ることが、何よりの防御策。 ・病原菌に抵抗性のある種類や品種を選ぶ。 病気や害虫が攻撃するのは弱くなった植物であることが多い。 ・養分と環境条件を長期的に改善するために行動する。 ・防除の手段は生物学的な方法により、また材料としては植物性と鉱物性のものを利用する。 ・害虫を殺すのが目的ではなく、それを遠ざけ、異常な繁殖をしないように制限する。 ※参考資料『カトリーヌ・ドゥ・シルギューイ(1997)有機農業の基本技術 八坂書房』
予防的な方法
・その土壌と気象に適した作物、抵抗性品種を採用する。 ・作物の自己防御機能が正常に働くのに好ましい条件で栽培する。 ・土とその養分バランスに気を配る。 よい団粒構造を持ち、生物活動が盛んで腐植に富み、作物が利用できるような養分が十分にある土は、作物の栄養バランスをよくし、抵抗性を高める事になる。 窒素分を与えすぎると、とくに吸収口を持つ害虫とカビ類の病原菌への抵抗性を弱める。 土にいくつかの微量要素が不足すると、抵抗力が落ちる。土の通気と排水をよくし、雑草が茂りすぎないように管理する。 ※参考資料『カトリーヌ・ドゥ・シルギューイ(1997)有機農業の基本技術 八坂書房』
生物的防除
・天敵となる昆虫やダニの放飼 ・細菌、ウィルス、糸状菌の利用。 Bt菌はもっともよく利用されている。 ・顆粒病ウィルスは、カルポヴィルシンという商品名で売られている。 ・トリコデルマは種々の病原菌に対して効果のある糸状菌で、土の上に散布して病原菌の増殖をおさえる。 ○Bt剤 ・鱗翅目(りんしもく)の害虫の幼虫に寄生する。 ・10日ぐらいの残効があり、チョウ、ガの飛来にしたがって実施される。 ・トラップとして性ホルモンを用いる必要がある。これにより発生の初期に散布し、次の散布の必要性を確かめることができる。 ・Bt剤は光に敏感なので、害虫が産卵する葉裏に散布する。 ・選択性があり、家畜、魚、ミツバチ、肉食性の昆虫には害が無い。 ※参考資料『カトリーヌ・ドゥ・シルギューイ(1997)有機農業の基本技術 八坂書房』
性ホルモンによる撹乱
・昆虫は、同じ種のオス、メスに対してフェロモンという匂い物質を出して性的な誘引をしている。 そのフェロモンのいくつかは化学構造が分かり、合成ができる。 作物に定期的に散布し、オスの行動をかき乱してメスの発見ができなくなるようにし、交尾を防ぐ。 ※参考資料『カトリーヌ・ドゥ・シルギューイ(1997)有機農業の基本技術 八坂書房』
誘引剤
・トラップにつけるフェロモン以外の物質のことで、以下のタイプがある。 ①砂糖、酢、タンパク質分解物などの食べ物。 ②化学物質 ③音、光、色などの物理的方法で色つきプレート(黄色)に粘着財をつけて垂直に下げる。 ※参考資料『カトリーヌ・ドゥ・シルギューイ(1997)有機農業の基本技術 八坂書房』
熱による土壌消毒
●太陽熱消毒 ・ネマトーダ、アブラムシに対し、特にトリコデルマと併用して用いる。 ※参考資料『カトリーヌ・ドゥ・シルギューイ(1997)有機農業の基本技術 八坂書房』
・熱により、病原菌、センチュウなどを死滅させる。 ・残留性がない、耐性菌が発生しない、比較的環境にやさしい方法。 ・太陽熱土壌消毒、土壌還元消毒、蒸気土壌消毒、熱水土壌消毒などがある。 ●太陽熱土壌消毒 ・栽培休閑期に太陽熱を利用し、ハウス内を密閉して比較的低い温度(40~45℃)を長期間(概ね14~20 日)持続させ、有害な病害虫を選択的に死滅させる方法。 ・熱源は太陽熱であるが、土壌を湛水することが重要で、水を入れることによって土壌中の酸素が欠乏した条件では酸素を必要とする病原菌や寄生性センチュウは比較的低温で死滅する。 ・太陽熱利用の欠点は高温が持続するのは夏場で、期間が限られていることや、寒冷地では温度が上がりにくいことがある。 ●土壌還元消毒 ・太陽熱土壌消毒より低温で効果が得られる。 ・有機物を混入し、強い還元状態にすることが太陽熱土壌消毒と異なる。 ・色々な有機物を試験した中ではショ糖が最も効果が高く、次いでふすまとなっており、通常、ふすま、米ぬかが用いられる。 ●蒸気土壌消毒 ・蒸気等を利用する場合は時期が限定されず短期間に行えるメリットがある。 ・深層までの土壌消毒がやりやすい。 ・太陽熱土壌消毒と比較しコストがかかる。 ※参考資料『有機農業営農ビジョン構築支援事業報告書(2015)有機農業の基礎知識 日本土壌協会』
植物性の殺虫剤
・ある植物は殺虫作用のあるものを体内で生合成する。 これらはアブラムシ、ハエの仲間、カの仲間、アオムシに効果がある。 ・残留性が少なく、ニコチンは別として、人間や温血動物に無害。 ・魚毒があり、選択性がないため天敵にも毒性があるので適切に使用する必要がある。 ・ピレトリン、ロテノン、ニコチン、クアッシア、リアニアなど。 ※参考資料『カトリーヌ・ドゥ・シルギューイ(1997)有機農業の基本技術 八坂書房』
鉱物油と植物油
・昆虫の気道をふさぐことによって、昆虫を殺す。 ※参考資料『カトリーヌ・ドゥ・シルギューイ(1997)有機農業の基本技術 八坂書房』
殺菌剤
・残留性が少なく、人間にほとんど毒性のない単純な工業製品を利用する。糸状菌によるたいていの病気に効果のある硫黄と銅塩が予防的に用いられている。 ・これらの製品のあるものは二次薬害を引き起こす。 土の中の微生物、とくにカビ類の群落の様相を変化させ、また土の肥沃度によって貴重なミミズの一部を殺すこともある。 硫黄、銅はテントウムシ、捕食性ダニなどの天敵に毒性があり、果樹のいくつかの品種に薬害が生じる。繰り返し散布された薬は、それが分解したあと土の銅含有量を高くする。 ※参考資料『カトリーヌ・ドゥ・シルギューイ(1997)有機農業の基本技術 八坂書房』
害虫の特徴
●センチュウ類(ネマトーダ) ・顕微鏡的に小さいミミズ状の虫。 ・特に同じ畑に同種類の作物を繰り返し作ると被害がひどくなる。 ・あるものは根の中に入り込みコブを作る。 ・収量がひどく低下し、感染がひどいと収穫の前に作物がやられてしまう。 ・バランスの取れた堆肥を与えること、とくに多様な作物による輪作はセンチュウの被害を抑えてくれるが、薬剤などへの抵抗性が強く、生理的変異も大きく、さらに土中で生活するために制圧は難しい。 ・抵抗性品種の採用、抵抗性台木への接木、緑肥としてアブラナ科のものを作付け、太陽熱消毒、蒸気消毒、生物的防除などの対策がある。 ・センチュウを殺す植物、引き寄せ捕らえる糸状菌、その卵を食べる糸状菌などの開発も行われている。 ・ある植物がセンチュウ抑制物質を生産することは古くから知られている。 ●双翅目(ハエ目)の害虫 ・嗅覚器官を備えていて、匂いに引かれてやってくる。 ・ウジ虫が根にトンネルをあける。 ●半翅目(カメムシ目)と総翅目(アザミウマ目)の害虫 ・アブラムシは作物の表皮を破って師管から汁液を吸い、また、これによってウィルスも媒介する。 ・作物に養分が多すぎたり、逆に不足してもアブラムシは広がりやすい。 ・土の耕し方と組み合わせたバランスのよい養分の供給がアブラムシの被害を減らす事になる。 ・アリがアブラムシを呼び寄せるので、アリが寄り付かぬようにする。 ・テントウムシは幼虫も成虫もよく食べるので、これを保護することが大切。 ・重要な天敵としては、ハサミムシ、ショクガバエ、クサカゲロウ、ヒメバチ、捕食性のハナカメムシなどがある。 ●鞘翅目(甲虫目)の害虫 ・接触型の薬剤に抵抗性のある甲皮を持つ。 ●鱗翅目(チョウ目)の害虫 ・この害虫はイモムシ、アオムシなどの幼虫の時期に葉、根、塊根、果実に被害を与える。 ※参考資料『カトリーヌ・ドゥ・シルギューイ(1997)有機農業の基本技術 八坂書房』
●センチュウ類 ○センチュウのタイプ ・センチュウは大まかに以下のタイプに分けられるが、大多数のセンチュウは①と②のタイプ。 ①他の小さい生物を餌とするもの(捕食性センチュウ) ②動植物の遺体を餌とするもの(腐生性センチュウ) ③作物の根等に寄生するもの(寄生性センチュウ) ・農作物に大きな被害を及ぼすのは寄生性のセンチュウで、主なものとしてネコブセンチュウ、ネグサレセンチュウ、シストセンチュウがあり、それぞれのセンチュウの中にも幾つかの種類がある。 ○センチュウによる作物被害 ・センチュウ害は、センチュウが寄生しても軽いときには外観からは生育に変化が見られずに、徐々に生育が悪くなる。 センチュウは、寄生の際にできた傷口から他の病原菌を感染、侵入させて発病を助長させる。 こうしたセンチュウと病原菌との複合病が多く見られる。 ・ネコブセンチュウは、野菜、果樹、樹木など多くの植物に寄生する。 ・シストセンチュウは特定の作物に被害を及ぼしジャガイモシストセンチュウ害などがある。 ・ネグサレセンチュウは、畑作物、樹木など多くの植物に被害を起こす。 ○センチュウ類の感染経路 ・センチュウ類の幼虫は土中を移動して根の生長点付近から根の中に侵入して作物(寄主)に被害を及ぼす。 ・ネコブセンチュウは、地温10℃以上になると活動を始め、1世代は夏で25~30日間位でもあり、卵は15℃以上で孵化し、年間数世代を経過し、センチュウの口針(こうしん)からある種の汁液を出しコブを作り作物体(寄主)に大きな被害を与える。 ネグサレセンチュウについては、地温15℃前後から活動を始める。 ※参考資料『有機農業営農ビジョン構築支援事業報告書(2015)有機農業の基礎知識 日本土壌協会』
ウィルス病
・機械的な傷、昆虫による傷、動物による傷口から侵入する。 ・栽培管理やバランスの取れた施肥によって、作物の抵抗性を高めるような予防的な対策が必要。 ※参考資料『カトリーヌ・ドゥ・シルギューイ(1997)有機農業の基本技術 八坂書房』
菌類による病気
・糸状菌によって起こる病気。風や土によって胞子が広まる。 ※参考資料『カトリーヌ・ドゥ・シルギューイ(1997)有機農業の基本技術 八坂書房』